マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
2000円でプロOBに習う最高の講習会。
「昔教わったことは間違いでした」
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byHideki Sugiyama
posted2019/02/10 09:00
野球の“常識”とされていたものも変化していく。現場の指導者にもアップデートの意志は大切なのだ。
キャッチャーのミットの向きも変わった?
捕手担当の定詰雅彦講師のレッスンは、実に実践的だ。話は広範囲に広がる。
「スナップスローは短い距離のノーステップから練習を始めて、投げたボールがたれる距離になったら、ステップを付ける。バント処理や投ゴロの一塁送球が苦手なピッチャーって、実はプロにも結構いて、それが致命傷になる場合もあるんです」
キャッチングのレッスンが興味深かった。
昔は、ミットの中の人差し指が上を向くように構えて捕れ、というのがスタンダードだった。
「この方法だと、捕球の瞬間に脇が締まって、ミットを止めるにはすごく効果的なんですけど、ミットを動かす自在性となると、どうなんでしょうね……」
そう言いながら、今度は人差し指が右を向くように構えて、ミットをグルグル回してみるから、見ているこちらも、左手を顔の前でグルグル回してみると、なるほど、こっちのほうがミットの動きがスムースではないか。
「今の野球は、高校生でもチェンジアップ、ツーシーム、スプリット……速い変化を使いますよね。それには、ミットを横に構えたほうが対応しやすいんじゃないか。そういう考え方も出てきています。プロの捕手でいえば、古田(敦也)タイプですね」
こうしなさい! という論調じゃない。
自分はどっちを取るのか、その選択は選手にしてもらってください。そういう意味合いが込められているようだ。
「たとえば、巨人にいた駒田(徳広)さんなんか、一塁手ですからミットを止める必要がない。だから、ファーストミットを真横に使って捕球点がすごく広かったし、ショートバウンドなんか実に見事に吸収するように捕球してましたよね」
キャッチングのレッスンが「捕手」の範疇にとどまらない。こうした話の広がりが堪えられない。
過去の常識を次々と覆す石毛宏典講師。
「左足の前で捕れ、グラブは立てろ、低く出せ……昔、教わったことは、全部間違いでした!」
守備担当の石毛宏典講師のレッスンはテンションが高い。さすが、昭和の「太田駒澤」で薫陶を受けた野球人である。
時折、厳しい叱咤の声もはさんで、ビシッとした緊張感漂う空間となった。
「プロの技を教えます!」
そのひと声で、一気にピンとした空気に変わって、“生徒”たちの意識が石毛講師の動きに集まる。