Number ExBACK NUMBER
清原和博、告白の始まり。
「人生、どこからおかしくなった……」
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byTakuya Sugiyama
posted2018/08/09 18:00
清原は今も清原、という幻想。
その衝撃はインタビューが進むにつれて、イメージとの落差を浮き彫りにし、さらに深く我々を打ちのめした。
私たちはどこかで美しい物語を期待していたのかもしれない。
記憶の中にある清原和博は、甲子園の決勝戦でホームランを放ち、プロ野球の日本シリーズで勝負を決める一打を放ち、多くの人が願えば願うほど、それをバット1本でかなえる打者だった。たとえ抑えられても、怪我をしても、必ず最後には白球がスタンドに弾んだ。今だって……。
現実はそんなに甘いものじゃないと頭ではわかっていながら、やはり、心のどこかで望み通りの結末を期待していたのかもしれない。
ヒーローは必ず立ち上がる。清原は今も清原である、と。
あの日、ホテルの一室で我々が向かい合った現実は、そういう妄想を一瞬でぶち壊した。
人をここまで変えてしまうものとは何なのか。
その闇の深さが、底知れなさが、我々から言葉を失わせた。
ひとつだけ引っかかっていた言葉。
インタビューを終え、編集部へと戻るまでの車内。相変わらず、沈黙は続いていた。 私も頭の中は真っ白だった。
ただ、呆然として空っぽになった空間のその片隅に、ひとつだけ引っかかっている言葉があった。
「自分の人生を振り返って、どこからおかしくなったのかとか、狂い始めたんだろうとか。苦しかったですね……」
インタビューの中で、清原氏はたしかにそう言った。全てを失い、「114番」という番号で呼ばれていた留置場で冷たい天井を見つめながら、そう自問し続けていたのだという。
かつての英雄を別人に堕としたのは覚醒剤だ。アンフェタミン系の精神刺激薬。白い粉末や結晶という形のある、目に見える、現実に存在する物質だ。
だが、それに手を伸ばした心の病巣には実体がない。清原氏の胸のうち深くに潜んでいるものが何か、いつ芽生え、いつから蠢き出したのか、本人すらわかっていない。
それを探す。
沈黙の車内で、3人がほとんど同じことを考えていた。
それが、1年にわたる「告白」の始まりだった。