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モドリッチ、泣き顔でのW杯MVP。
誰よりもタフな天才に世界が虜に。 

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井川洋一

井川洋一Yoichi Igawa

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photograph byGetty Images

posted2018/07/18 11:30

モドリッチ、泣き顔でのW杯MVP。誰よりもタフな天才に世界が虜に。<Number Web> photograph by Getty Images

W杯は勝者以上に印象深い敗者が出るものだ。ロシアでのその立ち位置はモドリッチだった。

今や多くの人がバロンドールに推すが。

 モドリッチはその後も周囲と連係しながら同点を目指した。鮮やかなフェイントで相手を欺いたり、精緻なアウトサイドキックでパスを通したりと、いつもの極上のパフォーマンスを見せながら。

 しかしフランスの逆襲からも、依然として危険な香りが漂っていた。そして59分、ポール・ポグバの鋭いボールに抜け出したムバッペが右から折り返し、グリーズマンを経由して、ポグバが右足で強烈なダイレクトシュート。この時、モドリッチは必死に帰陣してブロックに入った。

 けれど味方の体に当たったボールは再びフランスの6番のもとに転がり、今度は左足を横に寝かせて狙いすましたシュートを決めた。一瞬だけモドリッチはボールを見失ったが、ここはポグバの速さと巧さを称えるべきだろう。

 さらにムバッペに決められ(W杯決勝における10代の得点はペレと彼だけ)、マンジュキッチが1点を返したものの、クロアチアは2-4で敗北。いまや多くの人がバロンドールに推すモドリッチは、代表では頂点を極められなかった。

「小さな国、大きな夢」というスローガン。

 とはいっても、レアル・マドリーとクロアチア代表ではリソースに大きな隔たりがある。4500億円超の資産価値を持つクラブと、人口400万人ほどの国の代表チーム。クロアチアの守備陣が力量不足を指摘され続けたように、もしマドリーのセルヒオ・ラモスが同代表にいれば、決勝の結果も違っていたかもしれない。

 でもこのW杯でのモドリッチは白いシャツを着ている時よりも、男っぽく見えた。いつもより熱を発し、感情を露わにしていた。小さな祖国を文字通り牽引することに、誇りを感じていたからだろう。

「小さな国、大きな夢」──今回のクロアチア代表のスローガンだ。大会が進むごとに、その夢は膨らんでいった。アルゼンチンに完勝するなど派手にグループを勝ち上がった後、死闘に次ぐ死闘を経て決勝に到達。当然のようにスタミナ切れを指摘されながらも、強靭な精神と優れた技で何度も壁を乗り越えてきた彼らなら、史上9カ国目の優勝チームになれるかもしれない。そんな風に思ったのは、たぶん僕だけではないだろう。

【次ページ】 泣き顔のモドリッチは初めて見た。

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