炎の一筆入魂BACK NUMBER
一軍マウンド復帰までの743日間。
ついに蘇った広島・永川勝浩の意地。
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2018/06/08 16:30
プロ16年目。昨季限りで江草仁貴、梵英心が退団したことでチームで唯一の「松坂世代」になった。
球場が一気に沸いた「ピッチャー・永川」コール。
一軍昇格から5日目にようやく出番が回ってきた。
あのマウンドは、野球の神様が与えてくれたチャンスだったのかもしれない。
点差のせいもあったかもしれないが、復帰登板はどこかノスタルジックな空気が流れていた。8回、「ピッチャー・永川」のコールにスタンドは沸き、3ボールとなればスタンドから拍手で励まされた。
ファンだけではない。チームメートも、ベテランの復帰登板を強く意識した。
8回2死三塁から中田を外角低めカットボールで空振り三振に取った瞬間、捕手・會澤翼は右拳を握った。試合後「ナガさんが久々だったし、何とか0点で、ってね」と優しい表情を見せた。
「結果が出て良かった。何イニングでも投げろと言われたところで結果を出すのが仕事。本当は勝っている試合で(登板して)一緒に喜び合いたいけど、今日はホッとしています。2年ぶりに投げた投手に、しかも負けている展開でこれだけの声援をいただき、ありがたかった」
誰よりも安堵したのは永川本人だろう。2回2安打無失点、満点ではないかもしれないが、悪くないスタートだった。
手術から一軍マウンドまでの251日間。
復帰登板を終えた永川は、目があった記者に一瞬表情を緩めかけたが、止めた。
前を向き直し、そして球場を後にした。
人生初の手術から一軍マウンドまで、前を向いて走り続けた251日だった。人は下を向いて走るよりも、もちろん後ろを向いて走るよりも、前を向いて走ることが速く、そして力強いことを、永川は示したのだ。