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ダバディだけが知る本当の「ハリル」。
“鬼才”前日本代表監督との3年間。
text by
フローラン・ダバディFlorent Dabadie
photograph byFlorent Dabadie
posted2018/04/16 10:30
お互いを深く理解し合うようになったキッカケの大会、EURO2016の会場にて。
「俺はべンゲル監督より下なのか!」
私がハリルさんに用意していたホテルはサン=ジェルマン地区のプチホテル。
対して、べンゲル監督は五つ星のパークハイアットに泊まっていた。
それを知ったハリルさんに「俺はべンゲル監督より下なのか!」と怒鳴られたのだ。
もちろん私は理性を持って彼を説得した。私の実家はまさにサン=ジェルマン地区にあり、パリっ子として、こちらが好みだからという主観で選んだんだと。
しかし、彼のプライドはすごい。
言い合いのなか、私も初めて冷静さを失って激しく反論したが、突如として彼は黙ってしまった。
“今回の件は流すが、私はヴァイッド(ボスニア語では「唯一の」を意味する名前)だ! 俺をリスペクトしろ”、と暗に示すような重たい空気が漂った。
確かに、彼はボスニアでは国民的ヒーローであり、フランスでもスーパースターなのだ。
日本の人たちは、最後までそのオーラを理解しなかったと思う。サッカー文化や教養の違いだろう。
仕事の厳格さと、スタッフにかける圧力と。
あの衝突以来、2人で喧嘩をすることはなかった。
お互いを尊敬し合う残り2年間になった。
そこでは、仕事に対する彼の厳格さと同時に、周りのスタッフにかける半端ない圧力を何度も垣間見た。
通訳の樋渡群さんはそれに立派に耐えていたが、右腕のジャッキー(・ボヌベー/前日本代表コーチ)さんは喧嘩を重ねた末に疲れてしまった。