オリンピックへの道BACK NUMBER
高梨沙羅を抱きしめた伊藤有希。
12歳の頃から変わらない、心遣い。
posted2018/02/23 08:00
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
Asami Enomoto/JMPA
平昌五輪が、あとわずかで閉幕を迎えようとしている。
数々の光景が焼きつく中でも忘れがたいものは、2月12日、ノルディックスキー・ジャンプ女子ノーマルヒルでの場面だ。
会心のジャンプを決めた高梨沙羅のもとに赤いウェアを着た選手が駆け寄り、抱きしめる。すると高梨の目から涙がこぼれ落ちた。
その選手は、伊藤有希だった。
伊藤は、高梨とともにメダルを狙える1人として大会に臨んでいた。昨シーズンはワールドカップ総合2位とキャリア最高の成績をおさめ、今シーズンも苦しみながら上位に食らいつき、総合5位で平昌五輪を迎えていた。
自身目標としながら、ソチ五輪では手にすることができなかったメダルがほしいと強く望んでいた。
「伊藤だけ追い風は切ないです」
だが結果は残酷だった。1本目、2本目ともに飛距離が伸びず、最終成績はソチの7位を下回る9位。しかもそれが自身の失敗によるものではなかった。上位の選手中ただ1人、2本とも追い風に見舞われるという不運に見舞われた。
「4年間努力をしてきたのに、伊藤だけが追い風だったのは切ないです」
アウトドア競技とはいえあまりにも酷な結末、努力を無にしてしまう不運だったことを、鷲沢徹チーフコーチの言葉も表していた。
「たくさんの支えてくれた人たちがいました。喜ぶ顔が見たくていい結果をと思っていたのに」
試合後、涙ながらに語った伊藤の心中はいかばかりだったか。
にもかかわらず、伊藤は無念も失意も何もかも隠して、自身のジャンプの直後に待ち受けて、飛び終えた高梨を祝福したのである。