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“侍ファイター”田口良一。
ボクシング統一王者の知・勇・仁。
text by
安部龍太郎(直木賞作家)Ryutaro Abe
photograph byKyodo News
posted2018/02/05 10:30
WBA・IBFライトフライ級の世界統一戦は、まさに剣豪同士の戦いを思わせる、ギリギリの攻防が繰り広げられた。
試合終盤、田口が突然接近戦で戦い始めた!
メリンドのパンチは速くて重い。リーチが伸びて一発で倒されるという恐ろしさは感じないが、下手に踏み込むと強烈なカウンターを喰らいそうな不気味さがある。
田口もそのことは充分に分かっていて、立ち上がりはアウトボクシングに徹していた。長いリーチを活かし、メリンドのパンチが届かない距離から左ジャブを撃ち、相手が踏み込んできたなら右ストレートをくり出す。
試合は中盤までまったくの互角で、まさに手に汗握る展開だった。田口が優勢のうちに試合を進めているが、カウンターを一発喰らったなら、そのままラッシュされてダウンを奪われそうな迫力がメリンドにはあった。
ところが終盤になると試合の様相は一変した。アウトボクシングで安全策を取ってきた田口が、接近戦での撃ち合いを挑み始めたのである。
それはメリンドに距離を詰められ、不利な状況に追い込まれ、防戦を強いられているように初めは見えた。現に撃ち負けてコーナーに押し込まれる場面も2、3度あったが、試合が進むにつれてそうではないことが分かってきた。
芯のぶれない美しいフォームでパンチを……。
メリンドは中距離には強いが近距離に弱い。田口はそう見切って、あえて接近戦での撃ち合いに出たのである。
息を飲む壮絶な撃ち合いが10、11、12ラウンドとつづき、田口の優勢は誰の目にも明らかになった。消耗しきったメリンドに対し、田口は芯のぶれない美しいフォームでパンチを撃ち込みつづけたのである。