オリンピックPRESSBACK NUMBER
日本馬術で知られざる世界的快挙。
五輪に出られなくとも伝説の人馬。
text by
北野あづさAzusa Kitano
photograph byRyosuke Kaji
posted2018/01/29 08:00
時に力強く、時に軽やかに。林とエクゥィスクリアウォーターの演技は、まさに人馬一体だ。
自由演技で日本では見たことのない「74.875%」。
1つ目の競技は、決められた経路を回って採点される規定課目。ここでは69.120%だった。2位と6ポイント近く差があったことを考えれば、十分に良いスコアだったが、完全に満足できるものではなかった。
2つ目の競技は自由演技。これはフィギュアスケートのように音楽に合わせて行う。プログラムには決められた運動項目を必ず入れなければならず、さらに「難度」と呼ばれるワンランク上のワザを入れることもできる。
ただしこれはハイリスク・ハイリターンで、成功すれば高い評価を得られるが、失敗したらその分、点数は大きく引かれる。林とエクゥィスクリアウォーターは1つひとつの運動をミスなく決め、さらには取り入れた難度の高い技も成功させた。
結果は74.875%。自由演技は規定演技よりも高い点数がつく傾向にあるが、こんな数字を日本の競技会で見たことがない。しかも審査にあたった5名は、世界のトップ選手、トップホースの演技を熟知している国際審判員だ。本物を知っている審判員からも「本場の大会で勝負ができる演技だった」と高く評価された。
馬術に馴染みのない人からは「何をやっているのかわからない」と言われることの多い馬場馬術。林とエクゥィスクリアウォーターの演技は、馬と人が力を合わせるとこんなにいろいろなステップが踏めるんだ、こんなことができるんだ、と感じてもらうには十分なパフォーマンスだった。
「もっと多くの人に演技を見てもらいたいです」
林はこう語る。
「ようやく満足のいく演技ができました。世界に通用する馬であることは間違いない。僕がちゃんと乗れば絶対にいい演技をしてくれる。だから、この馬の演技を日本の皆さんに見せたいと思っていたし、口に出してそう言ってきました。
以前は馬の力を十分に引き出すことができずに、競技でもミスをしていたけれど、ようやくこれだけの力を持った馬に見合った乗り方ができるようになってきたと感じています。馬術を知らない人が見ても楽しんでもらえる演技ができたと思います。これが最後と思っていましたが、馬が健康なうちは、もっと多くの人にエクゥィスクリアウォーターの演技を見てもらいたいです」
オリンピック出場は叶わなかった。けれど、林とエクゥィスクリアウォーターのコンビは、馬場馬術の楽しさを日本の皆さんに伝えることができる、稀有な存在であることは間違いない。