ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
小國vs.岩佐戦に詰まっていたもの。
ボクシングにおける「紙一重」とは。
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byKyodo News
posted2017/09/14 11:30
試合後の岩佐(右)と小國のダメージには大きな差があった。しかし「これが逆になっていたかもしれない」と思わせる名試合だった。
「それしかない」という小國の奇襲。
試合前の両者の発言が実に対照的で面白い。
「12ラウンド中、7つ取ればいい。いや、チャンピオンはドローで防衛ですから6つ取ればいい」(小國)
「圧勝します。できればKOがいいですね」(岩佐)
正直に告白すると、技術や体力なら岩佐が上だとしても、勝負という観点に立てば、全力でドローを目指すと公言してはばからない小國に分があるのではないかと考えていた。
蓋を開けてみると、やはり仕掛けたのはチャンピオンだった。ゴングと同時に鋭いワンツーを打ち込み、右拳を岩佐のアゴにかすめてみせた。岩佐が「出てこないことを想定していた」というから、小國らしく裏を突いたと言える。
しかし、小國がこの戦術を選択した理由は、裏をかいたというよりは「それしかない」という事情のほうが大きかった。
「練習でもサウスポーが全然ダメだった。距離を取って駆け引きしたら絶対にアカン。つぶしていくしかないと思った。とにかく4回まで全力でいく」
これは自らのスタイルを崩すというリスクを背負う戦術だが、一度決めたらためらいなく実行に移すところが小國の強さだ。実際に岩佐は次のように語っている。
「最初の右ストレートがコツって当たったんですよ。すごくキレがあった。あっ、そうきたのかと。これは気をつけなきゃいけないな、と思いました」
小國のプランを狂わせた岩佐の左。
苦肉の策であった小國の先制攻撃は成功した。そして成功したがゆえに、歯車は微妙に狂った。
「右が当たるかもと思った瞬間でした」(小國)
岩佐の左ストレートをカウンターで食らい、チャンピオンは尻からキャンバスに転がったのだ。それでもなお、立ち上がった小國は自らの描いた勝利のパターンを忠実に実行した。グイグイとプレッシャーをかけながら、右ストレートをボディ中心に打ち下ろし、岩佐のボクシングを崩そうと試みた。