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広陵の叶わなかった10年越しの夢。
「止まった、ですね。時間が」

posted2017/09/03 07:00

 
広陵の叶わなかった10年越しの夢。「止まった、ですね。時間が」<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

「10年前の借りを返したい」と明言した中村奨成は、敗戦後に涙を見せた。監督の思いは、生徒たちに伝わっていたのだ。

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中村計

中村計Kei Nakamura

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Hideki Sugiyama

 現実は、ドラマのようにはいかない――。

 この夏の甲子園は、それを改めて思い知った。

 この夏の広陵は、2つの意味でドラマチックだった。

 1つは強肩強打の捕手・中村奨成が、大会新記録となる6本塁打をマークし、一躍、スーパースターにのし上がったこと。

 そしてもう1つは、佐賀北に逆転満塁本塁打を浴びて悲劇の準優勝に終わった2007年夏から、ちょうど10年目の節目にあたってたということ。

 広陵の選手たちは、目標を口にするとき「夏の日本一」と、決まって「夏の」と入れた。

 広陵は春の甲子園では3度、頂点に立っている。ところが、'07年を含め、夏の甲子園においては3度決勝に進みながら、いずれも準優勝に終わっているのだ。

 広陵のグラウンドのスコアボードには、「5040721」と数字が入っているのだという。隠語ならぬ「隠数字」だ。意味は、「コ、オ、シ、エン、ナツ、ニホン、イチ」。それを見て毎日何度となく、キャプテンが「甲子園行くぞ!」と声を上げ、選手らが「オッシャー!」と応じていたそうだ。

「これを観とったら、絶対甲子園にいけるけぇ」

 広島大会では、試合前日の夜と試合当日の行きのバスの中で、監督の中井哲之に「これを観とったら、絶対甲子園にいけるけぇ」と言われ、30分ほどの長さに編集された2007年夏のハイライト映像を繰り返し観たという。スキマスイッチの「奏」という曲をバックに編集されたその映像は、最後、佐賀北に敗れたところで終わっていた。

 中村は準決勝の天理戦に勝利したあと、9回裏に押し出し四球を与えて12-9まで迫られたシーンを振り返り、言った。

「10年前と似てるなー、と思いましたね。でも映像を見ていたので、逆にリラックスできました」

 10年前は8回裏、「疑惑の判定」と言われた押し出し四球の後に満塁弾を許し、広陵は4-5と逆転されたのだった。

【次ページ】 監督は否定しても、選手は10年前を意識していた。

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