フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
四大陸男子でトップ3人が生んだ名勝負。
羽生結弦の貫禄と、才能溢れる若き2人。
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byAsami Enomoto
posted2017/02/20 12:05
22歳、17歳、19歳と並んだ表彰台。新時代の良きライバルとして、これからの名勝負を期待したい。
羽生が見せた、王者の貫禄。
次は羽生の滑走順だった。
凛とした落ち着いた表情で、名前を呼ばれてから演技開始のポーズに入るまで許された30秒をぎりぎりいっぱいに使って足慣らしをする。穏やかな表情はまるで禅僧のようで、並々ならぬ集中力を感じさせた。
彼の心の中で、静かに闘志が燃えているのだろう。今日は彼が本領を発揮する、という予感があった。
音楽がはじまり、冒頭の4ループが、まるで3回転ジャンプのようにきれいにきまる。続いた4サルコウも完璧だった。後半でコンビネーションを予定していた二度目の4サルコウが、SPと同じように2回転になってしまったが、ミスを引きずることなく次の4トウループは難なく決まった。
羽生が本領を発揮したのは、それからである。
得意の3アクセル+3トウループがきれいに決まった後、次に予定していた3アクセルのコンビネーションの代わりに、羽生は4度目の4回転ジャンプ、4トウループ+2トウループを跳んだ。そして最後に予定されていた3ルッツの代わりに2本目の3アクセルを入れたのである。
絶対に勝つ、という羽生の執念が伝わってくる、迫真の演技だった。
人生で何度、これほどの演技を生で見ることができるだろうか、と表現しても過言ではない、王者の貫禄の滑りだった。
フリー206.67、総合303.71。
ほっとしたようにいつもの羽生の笑顔に戻った。あとはチェンの演技が終わるのを待つだけだった。
4回転を5度も降りたチェンの、恐るべき才能。
最終滑走のチェンが出てきたときは、まだ日本から応援にかけつけた多くのファンが投げた花束とクマのプーさんのぬいぐるみが氷の上に散在し、フラワーガールたちが懸命に片づけている最中だった。
『韃靼人の踊り』のメロディが始まり、4ルッツ+3トウループがきれいにきまった。続いた4フリップも、いともたやすそうに決まる。予定していた4トウループ、4トウループ+2トウループを成功させ、そして3ループを予定していた後半で、チェンは4サルコウをさらりと着氷した。
全米選手権のときと同じく、5度の4回転ジャンプ。3アクセルなどいくつかのジャンプは着氷がきれいではなかったものの、何という天才ジャンパーであろうか。