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高梨沙羅と伊藤有希、最高の前哨戦。
超難関の五輪ジャンプ台を攻略!
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byKyodo News
posted2017/02/22 07:00
W杯歴代最多勝利に並び、笑顔の高梨。心技体すべてで得た安定感によって、20歳のジャンパーはさらに強くなる。
悪コンディションも「自分を保つことに集中」した。
だが、翌16日は立て直してきた。初日同様、めまぐるしく変わる風が吹き、試合開始が遅れるほどの悪コンディション。全くと言っていいほど飛距離の出ない選手もいる中、高梨は1本目2位からの逆転優勝を飾った。この勝利によって男子のグレゴア・シュリーレンツァウアー(オーストリア)が持つワールドカップ歴代最多53勝に並んだのである。
懸案だった助走スピードが上がらないことに対しては、新しい板を使用することで対処した。試していない板を使うのはリスクがあるが、それをプラスにすることができたのは、培った経験と技術あればこそだ。
それと同時に、勝利につながったのは、心の安定だった。
「風が強い中でも、自分を保つことに集中できました」
気まぐれな風に苛立ちを隠せない選手がいる一方で、高梨は落ち着いて飛ぶことができた。それは試合当日の16日に限ったことではなく、15日からの過ごし方にもあった。
以前の高梨は、例えばソチ五輪前だと、納得がいかない試合があると予定されていたスケジュールを変更して、すべてを遮断するかのように、ジャンプに集中しようとした。見方を変えれば、平常ではいられなかったことを意味する。
しかし今はどのような結果であっても冷静に、率直に思いを語ることができている。傍目にも、過度に張り詰める姿はない。試合ごとの精神面の安定につながり、それが結果的に平昌での2日目の勝利へとつながっている。
初日に優勝した伊藤は、踏み切りのずれが減った。
その高梨に初日で勝利し、2日目も2位となった伊藤は、成長をあらためて実感させた。
「あらゆることを試してきました」という昨シーズンを経て、その成果を確立するための今シーズンは、課題としてきた踏み切りでのタイミングのずれもなくなってきて、失敗ジャンプが格段に減っている。