プロ野球亭日乗BACK NUMBER
巨人、巻き返しの中心は小林誠司。
高橋監督、エースが語る「成長」とは。
posted2016/07/22 11:30
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph by
Hideki Sugiyama
5月8日に東京ドームで行われた巨人対中日戦。試合後の巨人・高橋由伸監督の囲み取材でこんな出来事があった。
この試合で巨人は4-11の大敗を喫したこともあり、いささか緊張感の漂うムードの中、インタビュールームに高橋監督が入ってきた。記者が取り囲み、こんな質問が飛んだときだった。
「今日は(先発捕手が)小林に替えて相川でしたが……」
するとすかさず指揮官がこう返したのである。
「誰を使おうと僕の勝手じゃないですか」
その瞬間、取り囲んでいた番記者たちは一瞬、凍りついてしまったのだという。
この試合で高橋監督は、開幕から34試合ずっと先発マスクを被らせてきた小林誠司捕手に替えて、ベテランの相川亮二捕手を起用した。ところがその策も実らず投手陣が滅多打ちにあっての大敗だった。
このやりとりだけを聞くと、大敗に腹を立てたように、取りつく島もない高橋監督の答えだけがクローズアップされてしまうかもしれない。ただこのフレーズにこそ、指揮官の小林に対する並々ならない期待と、この相川起用への苦渋の選択が込められていたのである。
コーチ陣から提案された、相川の起用。
今季の巨人は開幕から好スタートを切ったが、4月末から5月にかけて最初の躓きがあった。4月29日からのヤクルト3連戦で初めて同一カード3連敗を喫し、次の広島戦は2勝1敗と勝ち越したが、件の中日戦も連敗。この日の3戦目は、わずか10日間で2度目の同一カード3連敗のピンチに立たされていたのである。
そこで試合前にコーチ陣から提案されたのが、先発捕手の入れ替えだった。
ヤクルト3連戦では、合わせて19失点した。連敗した中日との2試合でも15失点と、守備の立て直しがポイントだった。チームのムードを変える意味でも、ここはベテランの相川に頼ろうというのは、説得力のある策だった。
ただ、指揮官の頭には小林に対する期待と評価があった。だから苦渋の選択だったのだ。そうして最終的にはコーチ陣の進言を入れて、先発メンバー表に相川の名前を書き込んだ。