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父ヨス・フェルスタッペンに捧ぐ――。
F1史上最年少優勝の息子と父の物語。
posted2016/05/22 10:40
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph by
Hiroshi Kaneko
F1の長い歴史に、新しい記録が刻まれた。
第5戦スペインGPで、マックス・フェルスタッペンが初優勝。
2008年のイタリアGPで初優勝を成し遂げたセバスチャン・ベッテル(当時トロ・ロッソ)が打ち立てた21歳73日というF1史上最年少優勝記録を約3年も縮め、18歳228日というとてつもない記録を樹立したのである。
M・フェルスタッペンの優勝には、もうひとつの記録が隠されていた。
それはオランダ人としてのF1初優勝という偉業である。
フェルスタッペン以前に、オランダ人F1ドライバーは14人いたが、だれも表彰台の頂点に登ることはできなかった。最高位は3位が2回だけ。その2回とも、表彰台に上がったのは、マックスの父親のヨス・フェルスタッペンだった。
「コイツには同じ経験は味わわせたくない」
だが、J・フェルスタッペンが表彰台に上がったのは、F1にデビューしたばかりの'94年。しかも、当時所属していたベネトンのチームメートにいたのがミハエル・シューマッハだった。
当時シューマッハは、セナ亡き後のF1界を背負う若きスターで、デーモン・ヒルと初のタイトルを争っていた時期でもあったため、チームの勢力はシューマッハに注がれていた。
翌年、J・フェルスタッペンはシムテックヘ移籍するも、チームはシーズン途中で破綻。その後、アロウズ、ティレルなどを渡り歩いて、2003年にミナルディで失意のうちにF1のキャリアにピリオドを打った。
そのJ・フェルスタッペンと久しぶりに話をしたのが、2014年のことだった。M・フェルスタッペンの父親であり、マネージャーとしての再会だった。
このとき、J・フェルスタッペンが語っていた言葉は、いまでも記憶している。それは、F1の世界でよく聞かれる言葉である。
「F1で成功するには才能だけでは足りない。大切なのは、正しいタイミングで、正しい場所にいること。私はそれができなかったから、コイツには同じ経験は味わわせたくない」