スポーツのお値段BACK NUMBER
日本の放映権ビジネスが新時代に。
発火点は放送局「以外」の買い手?
text by
並木裕太Yuta Namiki
photograph byAFLO
posted2016/03/31 10:30
ソフトバンクはバスケットボールB.LEAGUEのトップパートナーとなった。日本の放映権ビジネスの新時代は来るか。
放送以外に収益化の方法を持つ売り先の登場。
かつてのプロ野球や発足当初のJリーグのように、スポーツ中継の国民的娯楽性が高かった時代は、地上波でも多くの試合が放送されていました。巨人戦がコンスタントに15~20%もの視聴率をたたき出していた頃、CM1分間の価格は約2000万円が相場で、中継1試合あたり2億円以上の広告収入があったと考えられます。主催者側に1億円の放映権を支払い、番組制作費を差し引いても十分な利益がありました。
その後、視聴率が低下し採算性が悪くなるにつれて、スポーツ中継の舞台はBSやCSなどの有料チャンネルへと移っていきます。こちらは、地上波に比べれば格段に安い広告料と契約者からの視聴料によって成り立つビジネスモデル。当然、放映権に対する価格交渉もシビアになります。
そうした状況のなか、今回のソフトバンクのような新たな売り先が登場したのはそれだけでもプラス材料ですが、彼らは放送(映像配信)サービスで得る利益を最大化することとは別に目的を有しており、放送局を相手にするよりも有利な条件で(大きな“財布”を相手に)交渉を進められる可能性があります。
中国ではプロサッカーリーグ(Cリーグ)の放映権が、5年80億元(約1500億円)で買い手がついたとの報道がありました。人口差があるとはいえ、広告収入や視聴料だけではとても説明がつかない高額な値段です。これもやはり、他のサービスとの抱き合わせで収益化を図る戦略が組み込まれているものと推測されます。
スポーツをフックに、他の部門でも利益を伸ばす。
また、欧州サッカーやMLBなどの放映権が成長し続けたのは、純粋に魅力的なコンテンツであることに加えて、スポーツをフックに、スポーツ以外の有料チャンネルも含めたパッケージを販売するという側面があったからでした。ソフトバンクのようなスポーツで携帯電話の加入者数を増やす戦術の、一つ手前の形という見方ができるかもしれません。
スポーツ放送を売りにして本業の利益を伸ばせる業種は、携帯電話会社以外にも考えられます。たとえばヤフーには「ヤフオク!」への出品が可能になるなどの各種特典を受けられる「Yahoo!プレミアム」という有料会員サービス(月額462円)があります。会員数は1000万人ほどと見られており、こうしたネット上の大規模な会員ビジネスが、新たな会員獲得、あるいは既存契約者の解約防止のための新たな目玉として、「ここでしか見られない」スポーツの映像配信サービスを展開する可能性は十分にあると思います。