セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
本田圭佑のポーカーフェイスは続く。
客席の「Vai,Honda!」にどう応える。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byAFLO
posted2016/03/22 11:10
交代後、本田は一瞬だけ悔しそうな表情を見せた。ポーカーフェイスの裏には、逆襲への意志がたぎっている。
いつもならすぐにベンチを立つ本田が物思いに。
ロスタイムには、ラツィオの俊足ドリブラー、F・アンデルソンに自陣まで攻め込まれた。DFアバーテが懸命に戻ってカットし、危うく難を逃れたことで、ミランは勝ち点1を失わずに済んだ。
2点目を奪えないことで、チームには手詰まり感が満ちている。
テクニックで上回る相手に、ミランは闘争心で抗おうとした。指揮官ミハイロビッチが選手たちに求めたことへ彼らは精一杯応えたはずだが、それだけではもはや不充分であることは、ミラニスタたちも十分理解している。
試合終了を告げる笛の後、不甲斐ないミランへブーイングが降り注いだ。ミランは3月のリーグ戦を、1つも白星を上げることなく終えた。
いつもならすぐにベンチを立つはずの本田は、なぜかすぐに動かず、両脚を伸ばした姿勢でしばらく物思いに座ったままだった。
チームにブーイングは飛んだが、本田への野次は聞こえなかった。
本田のFK、CKに対して客席からは常に声援が。
この試合、筆者はゴール南側の1F席に座り、後半のセットプレーを蹴る本田を間近に見ることができた。本田は後半だけでFKを2本、CKを4本打っている。
本田がボールをセットし打つたびに、父親に連れられた小さな子供やビール臭い息の若者たちが「Vai,Honda!(ホンダ、いけー!)」と声援を送っていた。
どのキックも実を結ばなかったが、彼らは決して悪態をつくことなく、信頼を込めて次の10番のプレーを待った。そして、彼らの視線の先にいるピッチ上の本田には、柔和で雄弁な表情があったのだ。
チームの内外から信頼を得た今の本田は、一喜一憂する必要のない境地にいるのだろう。
一方で、試合後の指揮官ミハイロビッチは、“もはや自分に打つ手はない”と言わんばかりに、嘆き節を並べた。
「この試合もまた(上位とのギャップを埋める)チャンスをフイにした。ゴールを奪うために、うちの持てる戦力であらゆるオプションをすべて試した。ここまでの2戦に比べて、選手たちは戦う姿勢を見せてくれた。それでも、点を取れない」