プロレスのじかんBACK NUMBER
ベルトを巻かない王者・柴田勝頼。
限りあるプロレスラー人生を思う。
text by
井上崇宏Takahiro Inoue
photograph byEssei Hara
posted2016/02/16 10:40
「トップの人間がひとり消えた。それをチャンスと捉えないヤツはプロレスをやめたほうがいい」と語る柴田。
なかなかベルトを腰にしない柴田の真意とは?
2016年。柴田は1・4東京ドームで石井智宏の持つNEVER無差別級王座に挑戦をした。柴田はこのNEVERのベルトが欲しかったわけでもなかったが、ビッグマッチにおける選手権試合の挑戦者として、試合が組まれた。そして王者・石井の真骨頂でもある、壮絶な肉体のぶつかり合い、消耗戦を制して、新チャンピオンとなった。しかし、ベルトはその腰には巻かなかった。
「前年の1・4で後藤(洋央紀)とIWGPタッグのベルトを獲って、俺たち喜んでね。だけど次のシリーズでのリマッチでやられて、あっという間に取り返された。だから、これでホッとしてたらまた同じ過ちを犯すと思って。“家に帰るまでが遠足”じゃないけど、“リマッチまでがタイトルマッチ”(笑)。勝っても負けても、最初からそのつもりでいたからベルトは巻かなかったんです」
そして、やはり今年もリマッチが組まれた。2月11日の大阪大会だ。再度、石井を撃破してみせた。2連勝して初めてチャンピオンになったんだなと感じた。いまの自分はれっきとしたチャンピオン。しかし、またもやベルトは腰に巻かない。よくよく考えてみると、NEVERのベルトにまったく思い入れがないことに気づいたから。
若手レスラー主体の興行から生まれたタイトル。
NEVER無差別級王座。
同王座は2012年、若手育成のために、若手のレスラーが主体となった興行『NEVER』の象徴として新設されたものだ。つまり、柴田が新日本退団後に誕生し、その後、田中将斗、石井智宏、真壁刀義らの手によって、この王座はタフな男の称号的な意味合いを持つようになった。
「まったくその歴史を知らないNEVERというタイトル。俺にとっては、石井や真壁刀義のものっていう印象がある。要するにバチバチぶつかり合って、ゴツゴツとしたタフマンコンテスト、我慢大会のようなね。その流儀に従ってこの2戦を闘って、そして勝った。もういいでしょう。せっかくチャンピオンになったんだから、これ、自分の好きな色に変えたいなと思ってる」
柴田はようやくチャンピオンになったと実感を得た瞬間、同時にあることに気づいたという。