野球クロスロードBACK NUMBER
山本昌50歳、ついに引退決断の時。
「ラジコンはもちろん再開するよ」
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2015/09/29 11:45
ドラゴンズ一筋31年の山本昌。最終登板の機会をファンも楽しみにしているはずだ。
人差し指に襲った、今まで感じたことのない痛み。
試合序盤で投手がコーチをマウンドに呼ぶ。その大半はアクシデントである。静寂とざわめきが混在するような空間が数分続いた後、場内アナウンスがコールされる。
ピッチャー、山本昌に代わりまして山井――。
「えぇ!」。ナゴヤドームを覆い尽くすほどの落胆の声を背に受け、山本昌は詫びるように肩を落としマウンドを降りた。
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試合後の本人の話によると、初回の雄平への初球に、左手人差し指が「体のどこかに当たったらしい」とのことだった。
「関節と爪をちょっと突いた感じだと思う。雄平はなんとか抑えられたけど、ボールを抜いたときに変な動きになった。次(大引)はごまかしがききませんでしたね。こういう経験はあんまりないかな? まさか指とはね、思わなかったですけど。試合でこれだけ痛みを感じると、何日かは投げられないと思う」
山本昌は、いつもどおり淡々と囲み取材を受けた。記者から質問されれば、できるだけディテールを伝えようと言葉を紡ぐ。その姿勢に何ら変わりはない。
「すみません」「申し訳ない」を繰り返し……。
ただ、ひとつだけいつもと違っていたとすれば、質問の度に球団、チーム、ファンに対して、「すみません」「申し訳ない」と繰り返していたことだった。
今にして思えば、この時すでに山本昌の脳裏には「引き際」の三文字が浮かんでいたのかもしれない。囲み取材の終わり際に、忸怩たる思いを振り絞っていた。
「今日投げる前から登板間隔を空けることは決まっていたけど、次のチャンスがあるかまだわからない。こういうピッチングをしているようじゃいけないな、と」
そして、車に乗り込むとき、山本昌は最後の謝罪をして球場を後にした。
「本当にね、迷惑をかけてしまって……すみませんでした」