野ボール横丁BACK NUMBER
1イニング2三塁打に、内野二塁打。
オコエ瑠偉の“陸上的”スピード。
posted2015/08/11 17:00
text by
中村計Kei Nakamura
photograph by
Kyodo News
甲子園の内野グラウンドが、陸上競技場のトラックに見えた。
3回、関東一(東東京)の先頭打者として打席に立ったオコエ瑠偉の打球が、低いライナーで高岡商(富山)の右中間を破る。
「最初から三つをねらって走りました。右中間に飛んで、三塁打にならなかったことはない」
オコエの50メートル走のタイムは5秒9。一塁から二塁までの「走る絵」は、まるで200メートル走のコーナリングである。
オコエの身長は183センチだが、同じような身長の選手と並ぶと、ベルトの位置はオコエの方が断然高い。ナイジェリア人の父を持つオコエは、それぐらい足が長いのだ。
監督の米沢貴光が話す。
「塁間を二、三歩ぐらいで行っているように見える。スリーベースのときは、とにかくベースをちゃんと踏んでくれと祈りながら見てます」
ストライドが大きいため「スリーベースがいちばん速いと思います」と言う通り、一塁を回ったあたりから、オコエはぐんぐん加速。二塁ベースの手前で大きく膨らみ、二塁から三塁までは一直線だ。二塁を回った瞬間は際どいタイミングになるかと思ったが、オコエがトップスピードに入るのはそこからだった。
「いつも使っている神宮球場は人工芝なので、クッションがきいてる感じ。それに比べて甲子園の土は硬い。だから最後、歩幅が合わなくて、ずいぶん遠くからスライディングしてしまった。失敗ですね」
本人はそう反省するが、スライディングも必要ないぐらい、余裕でセーフだった。
「打った瞬間に三塁打」を確信する打球。
3回、関東一は打者一巡の猛攻を見せ、2死満塁の場面で再びオコエに打席が回ってくる。すると、先ほどとまったく同じような光景が繰り返された。打球が右中間を抜ける。オコエの場合、「打った瞬間にホームラン」ならぬ「打った瞬間に三塁打」を確信する当たりだ。
オコエがあまりにも速いため、前を走る一塁走者との距離がどんどん詰まり、二塁を回ったとき、前走者はまだ三塁を蹴っていなかった。そのため、そこでいったんスピードを緩め、三塁を回ったのを確認してから再加速。それでも悠々セーフだった。