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“謎のチーム”サッカー北朝鮮代表。
その正体を東アジア杯で追いかける。
text by
吉崎エイジーニョ“Eijinho”Yoshizaki
photograph byTakuya Sugiyama
posted2015/08/11 12:40
東アジアカップでの日本代表との初戦。ゴールを決めて喜ぶ北朝鮮の選手たち。先制していた日本だが、試合後半、北朝鮮の粘りで競り負けた。
北朝鮮の女子にも自信を与えてしまったのでは……。
様々な事情があるだろうが、ひとつには「男子よりも熾烈な日本へのライバル意識」があるのではと、現場にいる限りでは感じる。
近年、なでしこジャパンは2011年以降の世界大会ですべて決勝進出を果たしているが、アジアの強豪北朝鮮にはここ5年勝てていない。2011年ロンドン五輪予選と'13年東アジアカップでは引き分け、'14年アジア大会では敗れた。
このうち、筆者は2011年9月に中国・済南で行われたロンドン五輪アジア予選を現地取材した。日朝戦が引き分けに終わった後、北朝鮮の練習場に取材に出向き、当時のシン・ウィグン監督に聞いてみた。「女子の世界蹴球選手権で優勝した日本はどこか変わったと感じますか?」と。監督は「半ギレ」といった様子でこう答えてきた。
「世界蹴球選手権はあくまで世界蹴球選手権だろ? 今はアジアで戦っているんじゃないのか?」
今大会でも、練習取材もままならず、試合後のミックスゾーンも完全にスルー。日本戦でも突出した力を見せたFWラ・ウンシムの人となりについてより深く取材しようとしたが、これも叶わず。
なでしこジャパンの試合観戦で見せていた余裕。
ところが女子の大会最終日だった8日、思わぬ機会が訪れた。先に韓国戦を終えた北朝鮮代表が、表彰式を待つために第2試合の日中戦をスタンドの記者席近くの席で観戦していた。日中戦は中国記者も多く取材に訪れたため、机つきの記者席が足りなくなり……北朝鮮女子代表が観戦する、真ん前の机がない席でメモを取りながら日本vs.中国戦を取材することになった。“耳ダンボ”にならないわけがない。そこで一番印象的だったことは――。
それは、日本のサイドの選手が切り返しのフェイントを失敗し、ボールを取られる度に、彼女らの中から小さな笑いが起きていたこと。
今回の東アジアカップ、なでしこジャパンは若い選手主体で臨んだ。どんな状況だったとしても「日本に楽に勝った」という点で、相手に自信を植え付けてしまったかな、とも感じた。
来年2月、大阪で行われるリオ五輪予選ではぜひリベンジを。
男女ともに親善試合が組まれることはないだろう北朝鮮。この国との対戦は、アジア勢との真剣勝負の大きな醍醐味だ。