セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
ラツィオ会長「クソ程の価値もない」。
暴言に逆襲を期す2つの地方クラブ。
posted2015/07/31 10:40
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph by
AFLO
発端は一本の電話だった。
イタリア中の地方クラブを激怒させる事件が起きたのは、今年2月に遡る。
ナポリ沖合に浮かぶ島の3部クラブ、イスキアがリーグの運営方針を巡って、3部リーグの機構会長マカッリへの不支持を表明したところ、ラツィオ会長ロティートがイスキアの幹部へ電話をかけてきた。言う事に従わなければ、リーグからの分配金を渡さないように仕向ける、という恫喝だった。
なぜラツィオの会長が3部の問題に? と思われるかもしれないが、権力掌握術に長けるロティートは、セリエAリーグ機構の領袖であるばかりでなく、イタリアサッカー協会の上級理事も務め、協会内部を牛耳る大物フィクサーであることは、今やイタリアのサッカー関係者で知らぬ者などいない公然の秘密だ。マカッリは、ロティートの権力を支える協会内部の票田のまとめ役の一人だった。
わかりやすく言い換えると、“子分”に刃向う者が現れたので、“ボス”のロティートが威圧するために出てきた、という話だ。
会話の録音がリークされ、2つの地方クラブに飛び火。
事件は、脅されたイスキアの幹部が録音していた会話内容を有力一般紙にリークしたことで発覚。ロティートの傲岸不遜ぶりが、これ以上ない形で満天下に晒された。
自らの権勢を誇示するために、ロティートは当時セリエBで昇格レースを戦っていた、2つの地方クラブの名を持ち出した。カルピとフロジノーネだ。
「セリエA放映権料の契約更改がうまくいったのは、すべてを仕切った私のおかげだ。だがな、この先田舎クラブのカルピやフロジノーネなんぞがAに上がってきたら、放映権を買おうという人間がいると思うか? (SKYの)マードックもベルルスコーニも、やつらの町がどこにあるか、存在すらも知らんのだぞ。つまりだな、カルピやフロジノーネには、クソ程の価値もないのだ」
名指しで馬鹿にされた2つの地方クラブは、大きな恥辱を負った。
大都会ローマにあってスクデット2回を誇るラツィオは、地方の弱小クラブにとって紛れもないビッグクラブだ。その会長が“田舎の貧乏クラブである貴様らじゃ金儲けの種にならん。セリエAへ来るな”と、門前払いを食わせたのだ。