マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
大阪桐蔭と履正社、“決戦”の裏側。
「大阪の頂点にはペガサスがいる」
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2015/07/21 16:30
「高校球界で最もプロに近い学校」である大阪桐蔭。激戦区大阪で3年連続夏の甲子園出場は伊達ではない。
夏の強豪同士の対決に、一方的な展開は少ない。
夏の大会で強豪同士の対決になった場合、片方のチームが一方的に押し切る試合はまずないと考えてよい。
猛暑、勝たねばならぬの緊張感、「今日が最後かも……」という息苦しさ、時として無神経なほどの大観衆の声援。押し寄せるそんなこんなにグラングランと揺さぶられながらも、期待と前評判を担って投手は懸命に投げる。
ヒットも打たれれば、エラーも出る。四球も出せば、指先を汗ですべらせて、思わぬ死球だって許してしまうこともある。
勝負はそこからだ。
ランナーは出る。それはしかたない。勝ち負けはそこからの“対処”、その一点に限られる。
走者を許してから、履正社打線のタイミングを巧みに外して、内野陣の間を抜けるような痛烈な打球を許さなかった大阪桐蔭・田中誠也。
リードされながら最後まで履正社のマウンドを守った寺島成輝は、唯一打たれた9回の2失点も、飛んでいったコースの勝利みたいな二塁打だったから、本当の意味では打たれていない。勝負運がなかった、というのが寺島投手を表わすいちばん近い表現ではないか。
「大阪には頂点に天馬、つまりペガサスがいてます」
終わってみればよくある点差で、まさかと思わせるようなサプライズもなく、予想を大きくはずれることなく、大阪桐蔭の勝利に終わったこの「決戦」。
ともに高校野球のトップレベルにある両校の対決に、奇想天外なおもしろい出来事がおこるわけもない。
夏は辛抱。がまんして我慢して、失点を防いだほうがおおむね勝ち。
そんな“黄金則”を、あらためて私たちの記憶に刻みつけて終わったが、あたりまえの話のようで、こんなに高校野球の本質を突いている法則もないのではないか。
今日の試合で、履正社は大阪桐蔭に夏の甲子園予選9連敗だという。
そんなに勝てていないのか……とあらためて驚いている。
「大阪には頂点に天馬、つまりペガサスがいてます。そこに強いサラブレッドが1頭おって。そのほかは……そやなぁ、ロバばっかりぎょうさんいてますわなぁ」
そんな冗談を言って笑ったある監督さんの言葉が、妙に真実味をもって、耳の中に響いている。