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異能の人、元大関貴ノ浪の「懐の深さ」。
~享年43、早過ぎる死を偲んで~
posted2015/07/10 10:30
text by
藤島大Dai Fujishima
photograph by
KYODO
粉雪の手触りのように柔らかな筋肉。壮大なる骨格。均衡の感覚はどこまでもしなやかだ。青森は三沢に生を享けたジャイアントの資質は力士の理想に近かった。
元大関、貴ノ浪、死す。
享年43。突然の訃報には「急性心不全」とあった。大阪のホテルで倒れ、自宅のある名古屋にて弔われた。
残された者たちは、土俵の勇姿の記憶を大切にしながらも、あの性格と頭脳こそを惜しむ。厚い胸の奥に棲む純情の塊、飄々としながら媚びない生き方、大相撲中継での明敏で率直な解説に接することは無念にももうかなわない。
異能の人。得意技は指導の手本にはないはずの「引っ張り込み」。もろ差しを許し、腰が縦に伸び切り、指のみを残し足裏は浮いて、そんな不恰好からおのれの世界に引き入れた。得体の知れぬ沼のごとく力を呑み込む。相手の肩の上から右腕を回し、すると指先はまわしに届いた。土俵際に追われるといきなり両の脚は軟体生物と化した。すり抜け、巻きつき、身長196cm、体重160kgもの巨体を瞬時に反転させる。