サムライブルーの原材料BACK NUMBER
永井謙佑、走るのは「きついっすよ」。
誰よりも速く、誰よりも長い距離を。
posted2015/05/22 10:30
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
J.LEAGUE PHOTOS
呑めば呑むほど、強くなる。
小学生のころに観たジャッキー・チェンの映画「酔拳」には、確かそんなフレーズがついていた。お酒の力を借りれば借りるほど、相手を圧倒してしまうという拳。指を盃の形にしてフラつきながら相手の喉元に入れる主人公がカッコ良く、どうしても真似てみたくなって親父の瓶ビールを呑もうとして怒られたことがあった。
〇〇するほど、○○になる。
最近の永井謙佑を見ていると、そんなフレーズと一緒にどうでもいい話まで思い出してしまう。
走れば走るほど、速くなる。
走れば走るほど、調子が出る。
名古屋グランパスでは左ウイングバックに入ることが多くなった。はまる試合、はまらない試合はあるにせよ、瞬間的かつ爆発的なスピードに乗ったまま長い距離を走り、ストライカーらしくゴール前に顔を出し、それでいてスタミナもある。思わず「疲れないの?」と尋ねて「きついっすよ」と返されたこともあったが、笑う表情にはまだまだ余裕があった。
爆発的なスピードと、驚異的なスタミナ。その表現が大袈裟とは思わない。ここまでJリーグ12試合、ヤマザキナビスコカップ3試合の計15試合のうち、途中交代は1度のみ。ハリルジャパンにも招集され、期待高まる彼の「走力」はまだまだ伸びていきそうな気配が漂っている。
走りたくても走れなかったベルギー時代。
走りたくとも走れなかった時期が、永井にはある。
もう2年前になる。
ロンドン五輪の活躍を受けて2013年1月から、彼はベルギーのスタンダール・リエージュに所属する。川島永嗣、小野裕二とともにベルギーの名門で新しいスタートを切ったものの、デビュー2試合目でアシストこそ記録したがゴールという結果に結びつけることはできなかった。計11試合に出場してノーゴール、90分間のフル出場は一度もなかった。
迎えた2013-2014年シーズンでは、開幕しても出場のチャンスすら与えられない状況となっていた。十分なトレーニングも積めず、古巣名古屋から「戻ってこい」と声をかけられ、夢なかばながら帰国を決断した。