野球クロスロードBACK NUMBER
進化を続ける走塁のスペシャリスト。
巨人・鈴木尚広が語る代走の醍醐味。
posted2015/02/24 11:50
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
NIKKAN SPORTS
いきなり、刺された。
それでも、巨人の鈴木尚広は飄々と事実を受け入れていた。
オープン戦の開幕となった2月21日の広島戦。8回2死から安打で出塁した寺内崇幸の代走として登場した鈴木は、小野淳平―磯村嘉孝の若いバッテリーから執拗なまでに警戒されていた。
牽制、牽制、牽制。打席に立つ松本哲也に対し、小野はまだ1球も投げていない。鈴木はリードを大きくとっているものの、相手の警戒心を予期していたかのように余裕を持って一塁ベースへ戻る。
3球の牽制の後、ようやく初球が投じられたが明らかなウエストで、2球目も高めのボール。広島バッテリーはまるで、松本とではなく鈴木と勝負しているようだった。
そして3球目、鈴木は躊躇なく走った。スタートは悪くない。だが、磯村の送球が紙一重のところで勝った。
「走塁のスペシャリスト」は、盗塁失敗に笑みを浮かべた。
通算208盗塁。成功率は81.9%を誇り、代走だけで100回以上も相手バッテリーを欺いてきた「走塁のスペシャリスト」の憤死に、スタンドがどよめく。しかし、当の本人はそれを悲観するどころか笑みを浮かべ、まるで他人事のように盗塁失敗を振り返った。
「結構、牽制ありましたもんね。3球くらいですか。よっぽど走られたくなかったんでしょうね」
鈴木は今年で37歳を迎える。ベテランと呼ばれる年齢の選手であれば、今はじっくりと調整をしている段階であるから仕上がりのピークはまだ先にあるはず。そのため、1度の失敗を重く受け止める必要はないが、鈴木の場合は他の狙いがあったからこそ、穏やかな表情で「失敗」を語れるのだろう。
新たな試み。
それが、彼を前向きにさせているのだ。