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雨の鈴鹿、悲劇はなぜ起きたか。
ビアンキの無事を総力で祈るF1界。
posted2014/10/07 11:20
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph by
Hiroshi Kaneko
レースが終了した直後、アロンソがリュックを背負って、サーキットを後にしようとしていた。
それは、日本GPをわずか2周でリタイアしていたからではなく、台風が鈴鹿に接近しようとしていたからでもなく、次のロシアGPが5日後から始まることが理由でもなかった。レース終盤の42周目に大事故に遭い、救急搬送されたビアンキがいる四日市市内にある総合医療センターに行くためだった。
「いま僕が知りたい唯一の情報は、ジュール(・ビアンキ)に関する良い知らせ。彼が無事だというニュースを早く聞きたい」
リタイアした状況を尋ねる報道陣にアロンソはそう言った後、一通り記者の質問に答えると、足早に出て行った。
台風が接近していた中で行なわれた2014年の日本GP決勝レースは、午後3時のスタートから異例の展開となった。セーフティーカーに先導されてスタートしたものの、雨脚がさらに激しくなり、2周後に赤旗。全車ピットレーンに帰還して、レースは中断された。
中断を覚悟で、セーフティーカー先導でのスタート。
スタート直後に事故や大雨で中断されたことはこれまでも何度かあり、その場合はホームストレート上にマシンは停止する。しかし、今回はセーフティーカー先導での走行中の赤旗だったため、ピットレーンで止まるという珍しいケースが採用された。
なぜ、これまでこのようなケースが見られなかったのか。それはセーフティーカー先導でわずか2周で中断するような天候では、そもそもレースをスタートさせず、遅延して天候が回復してからスタートするのが一般的だからである。
しかし、日本GPのスタート時間は午後3時。10月5日の鈴鹿地方の日の入りは午後5時33分だったから、中断が長引けばレースを最後まで行なうことができない可能性があった。しかも台風は接近中で、状況は悪化することが予想されていた。中断を覚悟してでもスタートしたあたりに、レースを運営するFIAがいかに苦悩していたかがわかる。