野球善哉BACK NUMBER
東邦の「打」はなぜ輝かなかったのか。
日本文理戦の前に充満した「弱気」。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byKyodo News
posted2014/08/18 17:00
日本文理の前に涙を飲んだ東邦。地方大会では、6試合で3失策の堅守とともに、4割打者2人を抱える打撃で勝ち抜いたが、この日は持ち味を発揮することはできなかった。
東邦が先制、しかし日本文理は一気呵成に攻め立てた。
実際の試合は3回までは投手戦の様相だったが、4回に試合が動いた。
4回裏、東邦が相手のパスボールで先制する。5回裏にも1死から鈴木が中前安打で出塁し、盗塁成功。2番・児玉大樹のタイムリースリーベースで1点を追加し、試合をリードした。
しかし6回表、日本文理が反撃を開始する。
先頭の8番・鎌倉航が右中間を破る二塁打を放つと、9番・飯塚が安打で続き、1番・星兼太の左翼前適時打でまず1点。2番・黒台騎士(ないと)の犠打と3番・小太刀緒飛(こだち おとわ)の四球で1死満塁とすると、4番・池田貴将が左翼前に2点適時打を放ち、逆転に成功した。
日本文理の攻めは一気呵成のものだった。試合前に意気込んでいたように、最大の武器である「打」を信じてどんどん振ってきたのだ。犠打を使わないわけではないが、打者が有利の場合は打たせていく。この攻撃でも、鎌倉の出塁のあと飯塚、星は強攻策で東邦の1年生右腕・藤嶋健人に襲い掛かった。打ち合いを望んでいたからこその、果敢な攻撃といえた。
そして、試合はそのまま日本文理の勝利に終わった。
なぜ東邦は持ち味を発揮することなく敗れたのか。
東邦も反撃に出ようとしたが、どれも1死か2死からで単発止まり。ドラフト候補と噂される相手投手の飯塚の前に意気消沈した形だった。9回裏には代打攻勢を掛けるも、三者連続三振。「打」の東邦は火を噴くことなく敗れ去ってしまった。
なぜ東邦は、持ち味を発揮することなく敗れ去ってしまったのか。その要因は、試合前の選手や指揮官の、自らの武器を信じきれない姿勢にあったような気がしてならない。
同じことは、試合の采配についてもいえる。
4回裏のことだ。先頭の3番・工藤駿が左翼二塁打で出塁、4番・溝口慶周が四球で歩き、無死一、二塁。ここで、森田監督は宮沢一成に犠打を命じた。1死二、三塁の好機を作ることには成功したが、結果的にはパスボールの1点のみに終わった。
森田監督は「併殺を取られる怖さもあったので、ここは試合の流れから犠打を選んで、後ろの2人に期待した」と振り返ったが、1回戦では4番を任せ、1打席目にはセンター前にクリーンヒットを放っていた宮沢への作戦にしては、弱気ではなかったか。