甲子園の風BACK NUMBER
甲子園を制す条件の1つ、「頭脳」。
捕手たちが繰り広げる水面下の戦い。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byKyodo News
posted2014/08/15 10:50
春日部共栄の金子大地は、テンポのいい投球で春の王者のリズムを崩し続けた。激戦区埼玉を制した底力は本物だ。
2回で配球を大胆に変更した富山商の富川。
日大鶴ヶ丘を2-0の僅差で退けた富山商は、ゲーム中に大胆に配球を切り替えたことが勝利へと繋がった。
エースの森田駿哉、捕手の富川征哉が揃って「一番自信を持っているのは真っすぐ」と言うように、初回からストレート中心の配球で攻めたが、試合では相手にそれを狙われた。
ストレートは140km以上を計測し、走りもいい。安打も2本、いずれも単打であることを考えると、打者1巡あたりまでは様子を見てもいいところだが、富川は2回を終えた時点で素早く決断し、スライダー中心の配球に変えたのだ。
その狙いを、富川が述べる。
「初回からストレートが上ずっていたりコースもばらついていて。今日はスライダーのキレがよかったので、『ストレートでカウントを稼いでスライダーで三振を取ろう』と考えてリードをするようにしました」
富川の思い切った修正によって、3回からは効果的に三振が取れるようになった。例えば、8回2死一、三塁のピンチ。長打が出れば同点の場面で三振に打ち取ったボールを含め、この試合で奪った8三振の決め球は全てスライダーだった。
エースの森田は、富川のリードに納得した表情を見せていた。
「いつもそうなんですけど、富川が『相手はこういうボールを狙ってくるから』と試合前に言ってくれるので、自分もあらかじめ準備できるし、試合中でもすぐに対応できます」
相手を探求し続けるバッテリーは強い。
鮮やかな完封劇。それでも、前崎秀和監督は、バッテリーに苦言を呈していた。
「終盤のピッチングは良かったと思います。ただ、ストレートがちょっと。コースに投げ分けられれば、スライダーがもっと投げやすくなりますから。ストレートの精度をもっと高めていかないといけません。そういう話は森田たちにしようと思います」
バッテリーに全幅の信頼を寄せる監督もいれば、及第点をあげつつも課題をしっかりと示す監督もいる。
リードには答えがない――。
だからこそ、一度の勝利で満足せず、相手を探求し続け、的確な答えをより多く導き出さなければならない。それを実現できるバッテリーがいるチームこそ、この夏の覇者にもっともふさわしいのかもしれない。