甲子園の風BACK NUMBER
甲子園を制す条件の1つ、「頭脳」。
捕手たちが繰り広げる水面下の戦い。
posted2014/08/15 10:50
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
Kyodo News
2012年夏の決勝。光星学院・田村龍弘、北條史也の両スラッガーの裏をかいた大阪桐蔭・森友哉の配球が絶賛された。
相手を入念に観察した上で正解を導き出した森の頭脳は、現代の高校野球において、身体的な能力だけでは全国の頂点に立つことができないことを証明してみせた、と言えるだろう。
指導者、選手問わず、誰でも映像やインターネットなど様々な媒体からあらゆる情報を入手できるようになったということは、それだけ相手を丸裸にしやすくなる。だからこそ、ゲーム上での選手たちの臨機応変な対応が、より求められるようになっているのだ。
特に「グラウンドの監督」と形容される捕手にその能力が備わっているか否かで、勝敗の行方は大きく変わってくる。
春日部共栄の金星を生んだ内角攻め。
今夏の甲子園の初日でも、それがしっかりと現れていた。
目立った配球は大きくふたつ。「相手への意識付け」と「持ち球の有効活用」だった。
開幕戦でセンバツ王者の龍谷大平安を5-1で下し、見事な金星を挙げた春日部共栄バッテリーは、平安打線の意識を掌握した。
捕手の守屋元気の配球は、初回から外角中心の配球だった。だが、クリーンナップなど長打のある打者に対しては、強気に内角で攻めることを心がけていたという。
守屋がその意図を説明する。
「金子が持ち味を出してくれたことに尽きますけど、相手にインコースを印象付けることでひっかけてくれると思ったんで、そこは意識してリードしました」
その狙いがはっきりと現れていたのが、5-1で迎えた8回、無死一、二塁の場面だった。4番の河合泰聖に一発を浴びれば1点差、ヒットで繋がれても大量失点というピンチでも、春日部共栄バッテリーはその配球を貫いた。
内角高めから入り、外角、内角とコースを散らしサードゴロで併殺。理想的な攻めによってこの回を無失点で切り抜けた春日部共栄は、勝利をほぼ手中に収めたのだ。