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選抜覇者が沈んだ「魔の1回表」。
春日部共栄が先攻を選択した理由。
posted2014/08/11 17:25
text by
中村計Kei Nakamura
photograph by
Kyodo News
「後攻で……」
と言いかけ、慌てて言い直した。
「先攻でお願いします!」
春日部共栄(埼玉)の主将、小林慎太郎は試合後、苦笑いを浮かべた。
「いつもは勝ったら後攻だったんで、思わず間違えちゃいました」
春日部共栄の「先攻」は偶然ではなく、意図的なものだった。
小林が振り返る。
「監督に『ジャンケンで勝ったら先攻を取れ!』って言われてたんです。でも、ジャンケンにはあんまり自信がないので、気合いを込めてグーでいきました。そうしたら、たまたま勝てて」
監督の本多利治は、先攻を指示した理由をこう説明する。
「いつもは後攻が好きなんです。ピッチャーがしっかり抑えてから、試合をスタートしたい。でも、今日は相手が選抜王者の(龍谷大)平安さんですからね。状況が違った。春夏連覇を意識していたら、ピッチャーは立ち上がり、いつも以上に力が入るだろうな、と。それにしても、あいつがジャンケンで勝つとはね。それだけでも驚きましたよ!」
浮き足立った相手先発を攻め、1回表に5点を獲得。
試合は本多が予想した通りの展開となった。
無死一塁から、本多は2番・佐野尚輝に送りバントを指示。すると龍谷大平安(京都)の先発投手、元氏玲仁(もとうじ れいじ)が一塁へ悪送球。一、三塁とチャンスを広げる。
小林がそのシーンを思い起こす。
「相手が浮き足立っているのがわかった」
元氏はこのエラーをきっかけに、死球を与えるなど、明らかに制球を乱し始める。
春日部共栄打線は、元氏のストライクを取りにきた甘いボールを見逃さなかった。この回、計5安打を集中させ、一気に5得点。試合を大きく有利に運んだ。
それでも龍谷大平安は2番手以降の投手が踏ん張り、春日部共栄を初回の5点だけに抑えた。ところが出鼻をくじかれた打線は、何度となくチャンスをつくったものの、7回裏に1点をとるのが精一杯。監督の原田英彦が「初回の5点が効きました」と唇をかんだように、終わってみると、1回表の5点で試合の大勢は決まっていた。