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米国の大御所が突きつけた「三行半」。
クリンスマン体制の功罪を問う。 

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田邊雅之

田邊雅之Masayuki Tanabe

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posted2014/07/28 10:30

米国の大御所が突きつけた「三行半」。クリンスマン体制の功罪を問う。<Number Web> photograph by Getty Images

延長前半に2点を奪われるまで、ベルギーの猛攻に必死に抗ったティム・ハワード。ファーガソンに招かれて以来、プレミアでプレーするGKの意地を見せた。

ファイティングスピリット論にはもううんざり。

 おそらく僕たちは、興奮状態が醒めるまで、もうしばらく待たなければならないのだろう。ベルギー戦の終盤、すさまじい反撃を展開した選手たちは讃えられてしかるべきだが、あの試合にしても、何か新しい要素はあったのだろうか?

 アメリカ人アスリートが持つ、凄まじいまでの闘争本能や、試合で勝利を手にしたいという渇望。それは何もクリンスマンが新たに発明したものではない。

 競技の違いにかかわらず、選手たちが強い闘争本能を備えていることは、アメリカでは常識になっている。代表として国際試合に臨む場合は特にそうだ。

 さらに述べるなら、アメリカ代表のファイティング・スピリットなるものがやたらと持ち上げられ始めた時点で、僕はうんざりしてしまう。

 (アメリカ人と違って)ドイツ人は試合に勝ちたがらない。

 アルゼンチン人は(アメリカ人のような)ファイティング・スピリットを持っていない。

 イタリア人やスペイン人、ウルグアイ人も、(アメリカ人のような)金玉を持っていない。

 そんな話を信じろとでも言うのだろうか? アメリカ代表に関しては、メンタル的な要素ばかりが、あまりに強調され過ぎている。

好対照だったコスタリカのホルヘ・ピント。

 ならばコスタリカはどうだろうか? 今大会におけるコスタリカのパフォーマンスは見事だったし、アメリカ代表よりもはるかに質が高かった。

 まずは数字から見てみよう。コスタリカの人口は約450万人だが、アメリカは約3億1700万の人口を誇っている。潜在的なサッカー選手の数や、ユース育成のための活動予算、指導者の数などは比較にならない。

 コスタリカとアメリカでは、監督の待遇にも大きな違いがある。

 アメリカ代表を率いるセレブな外国人監督は、ヘリで飛び回り、得体の知れないコーチングスタッフを登用し、カリスマ性を駆使して新聞の見出しをにぎわせてきた。

 たしかにコスタリカのホルヘ・ルイス・ピントも、外国人監督ではある(ピントはコロンビア人であって、コスタリカ人ではない)。だが彼は指導者として30年間、地味ながらも着実に成功を積み重ねてきた人物だ。

 クリンスマンに比べれば、ピントは選手の選択肢も少なかったし、与えられた予算や人的資源も限られていた。

 だが彼は、クリンスマンには出来なかったことをやってのけている。コスタリカ人から構成された、コスタリカ代表チームを作り上げたことだ。しかもコスタリカ代表は、魅力的で、首尾一貫していて、賢いサッカーを実践してみせた。

 クリンスマンは、こういうサッカーをやろうとさえしなかったのではないだろうか。アメリカ代表の試合を眺めていると、そんな疑問を覚えることもしばしばある。

【次ページ】 ありがとう、そしてさよならクリンスマン。

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