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米国の大御所が突きつけた「三行半」。
クリンスマン体制の功罪を問う。
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![田邊雅之](https://number.ismcdn.jp/mwimgs/d/3/90/img_d3d03d4d3066cdf12a707169472cb3bb9044.jpg)
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byGetty Images
posted2014/07/28 10:30
![米国の大御所が突きつけた「三行半」。クリンスマン体制の功罪を問う。<Number Web> photograph by Getty Images](https://number.ismcdn.jp/mwimgs/0/2/700/img_02055f428ce6527ddb7303575b7f37d0480426.jpg)
延長前半に2点を奪われるまで、ベルギーの猛攻に必死に抗ったティム・ハワード。ファーガソンに招かれて以来、プレミアでプレーするGKの意地を見せた。
ファイティングスピリット論にはもううんざり。
おそらく僕たちは、興奮状態が醒めるまで、もうしばらく待たなければならないのだろう。ベルギー戦の終盤、すさまじい反撃を展開した選手たちは讃えられてしかるべきだが、あの試合にしても、何か新しい要素はあったのだろうか?
アメリカ人アスリートが持つ、凄まじいまでの闘争本能や、試合で勝利を手にしたいという渇望。それは何もクリンスマンが新たに発明したものではない。
競技の違いにかかわらず、選手たちが強い闘争本能を備えていることは、アメリカでは常識になっている。代表として国際試合に臨む場合は特にそうだ。
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さらに述べるなら、アメリカ代表のファイティング・スピリットなるものがやたらと持ち上げられ始めた時点で、僕はうんざりしてしまう。
(アメリカ人と違って)ドイツ人は試合に勝ちたがらない。
アルゼンチン人は(アメリカ人のような)ファイティング・スピリットを持っていない。
イタリア人やスペイン人、ウルグアイ人も、(アメリカ人のような)金玉を持っていない。
そんな話を信じろとでも言うのだろうか? アメリカ代表に関しては、メンタル的な要素ばかりが、あまりに強調され過ぎている。
好対照だったコスタリカのホルヘ・ピント。
ならばコスタリカはどうだろうか? 今大会におけるコスタリカのパフォーマンスは見事だったし、アメリカ代表よりもはるかに質が高かった。
まずは数字から見てみよう。コスタリカの人口は約450万人だが、アメリカは約3億1700万の人口を誇っている。潜在的なサッカー選手の数や、ユース育成のための活動予算、指導者の数などは比較にならない。
コスタリカとアメリカでは、監督の待遇にも大きな違いがある。
アメリカ代表を率いるセレブな外国人監督は、ヘリで飛び回り、得体の知れないコーチングスタッフを登用し、カリスマ性を駆使して新聞の見出しをにぎわせてきた。
たしかにコスタリカのホルヘ・ルイス・ピントも、外国人監督ではある(ピントはコロンビア人であって、コスタリカ人ではない)。だが彼は指導者として30年間、地味ながらも着実に成功を積み重ねてきた人物だ。
クリンスマンに比べれば、ピントは選手の選択肢も少なかったし、与えられた予算や人的資源も限られていた。
だが彼は、クリンスマンには出来なかったことをやってのけている。コスタリカ人から構成された、コスタリカ代表チームを作り上げたことだ。しかもコスタリカ代表は、魅力的で、首尾一貫していて、賢いサッカーを実践してみせた。
クリンスマンは、こういうサッカーをやろうとさえしなかったのではないだろうか。アメリカ代表の試合を眺めていると、そんな疑問を覚えることもしばしばある。