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巨匠・ピルロの“呪われたFK”。
積み上げた42本は至高の切れ味。 

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弓削高志

弓削高志Takashi Yuge

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posted2014/04/02 10:30

巨匠・ピルロの“呪われたFK”。積み上げた42本は至高の切れ味。<Number Web> photograph by AFLO

第28節ジェノア戦、土壇場でフリーキックを決めるピルロ。

かつては「エレベーター」、そして「呪われたFK」。

 魔法のFKには、お手本があった。

 まだ駆け出しの若手だった頃、ピルロが範としたのは英雄バッジョだった。そしてレジスタとして台頭したミラン時代には、欧州屈指の遣い手といわれていたMFジュニーニョ・ペルナンブカーノ(当時リヨン)のキックを研究した。無回転系のスペシャリストだった本家に対し、ピルロは改良を加え、壁を越えてボールを急激に落とす技を編み出した。

 あまりの急降下ぶりにミランのチームメートたちが“アッシェンソーレ(=エレベーター)”と名づけたFKは、ユーベ移籍後に“マレデッタ(=呪われたFK)”と改名した。

 助走は短く。

 左足で1歩目を踏み出して、4歩目の右足でミートする。

 膝は軽く曲げたまま、甲でこすり上げる。

 バシュッ。

 ピルロの右足がボールを捉えて、空気を切る音が一瞬した後、ボールはゴールネットの中に納まっている。

 ここ数年で、長い助走から一直線に打ち抜くパターンや、ジャンプする壁の下を狙うバリエーションも増やした。ピルロのFKは進化を続けている。

「キックする位置や壁の数に合わせて、自分の感覚で蹴るのが大事だ」

デル・ピエーロ、バッジョを超えあとは1人だけ。

 いかにも簡単そうにピルロは秘訣を説いてくれるが、真似できる選手がどれほどいるのだろう。FWバロテッリ(ミラン)やFWインシーニェ(ナポリ)でも、ピルロの後継者としては物足りない。相手GKを呪縛にかけるピルロの右足の切れ味と成功率は、年を追うごとに増している。

 今季5本目となったジェノア戦でのゴールで、ピルロのセリエA通算FK得点記録は25点に達した。

 過去30年間の統計では、デル・ピエーロ(22得点)やバッジョ、ゾラ(ともに20得点)といった歴代の名手たちを従える。もはや上にいるのは、サンプドリアの現監督ミハイロビッチだけだ。気難しさで知られる指揮官も自身の持つ記録にわずか3本差まで迫られ、「ピルロになら記録を抜かれても仕方ない」と半ば観念している。

【次ページ】 パリューカ「いっそのこと壁を作らない方がいい」。

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