濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
後楽園の『Krush』で何が起こった?
佐藤嘉洋が再認識した“世界基準”。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byTakao Masaki
posted2011/01/17 10:30
佐藤嘉洋(写真左)は、24歳ながら欧州で世界タイトルを4本持つシェムシ・ベキリの打たれ強さに苦戦を強いられた
2011年1月9日に開催された『Krush』後楽園大会で、佐藤嘉洋はスイスのシェムシ・ベキリと対戦した。
ベキリはK-1参戦経験もなく、日本ではまったくの無名。佐藤自身、ベキリの存在を知らなかったという。しかし、ベキリはWKAウェルター級など4本の世界タイトルを保持しており、佐藤の相手としては申し分なかった。
欧州4冠、真の実力。
実際、試合が始まってみると、ベキリは肩書きにふさわしい実力を発揮してみせた。序盤から圧力をかけ、ローキックとヒザ蹴りを的確に当ててくる佐藤に対し、ペースを譲る気配がないのだ。
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要所で飛び出す左右のフックは、最後まで手数が減らない。カウンターで合わせてくるバックキックは、佐藤をして「61戦やってきて一番強かった」と言わしめた。
判定は2-1。コメントブースにおける「辛勝ですね。本当に強い相手だった」という佐藤の第一声が、試合のすべてを物語っている。
K-1 MAX世界トーナメント準優勝の佐藤が、無名のファイターに大苦戦したという事実は、決してファンを満足させるものではなかっただろう。会場に足を運んだ人間が見たかったのは、やはり佐藤の快勝だ。
苦戦から見えた光明。
ただ佐藤自身にとって、この苦戦は望外の喜びでもあったのではないか。ベキリの存在は、佐藤が選んだ道に光を当ててくれるものだったからだ。
「こんな強いヤツが、どうやら世界にはいっぱいいるみたいなんで」という言葉とともに、佐藤は次戦をイタリアで行なうことを発表した。K-1を離脱するわけではないが、世界トーナメントが開催されるまでの期間は海外を中心に試合をしていくのだという。
「僕は日本ボケしてたんですよ。選手のために100%、環境を整えてくれる日本に慣れ切ってしまっていた。でも海外ではそうじゃないですからね。だから海外で、若い頃のガツガツした気持ちで試合がしたいんです。今、もの凄くハングリーになってますね」
そう言って、これからの闘いに思いを馳せる佐藤。K-1のトップファイターがあえて海外に出るのは唐突にも感じられるが、実はそれこそが彼のライフワークなのである。