ブックソムリエ ~必読!オールタイムベスト~BACK NUMBER
最後まで持続する緊張感。
歴史に刻まれる闘牛の名勝負。
~『さもなくば喪服を』を読む~
text by
馬立勝Masaru Madate
photograph bySports Graphic Number
posted2014/01/15 06:10
ラリー・コリンズ/ドミニク・ラピエール著 志摩隆訳 早川書房 2600円+税
1964年5月20日、マドリードの雨に濡れた闘牛場。ここでスペイン史上最も高給を取る闘牛士が一頭の牡牛と闘った。28歳の闘牛士はエル・コルドベス(コルドバの男)と呼ばれ、伝統ある闘牛の技を破壊する闘い方で論争の的になり国民的アイドルともなったマヌエル・ベニテス。相手は左眼が見えず、闘牛士が手にする深紅の布の動きに従わない危険な動きをする、インプルシボ(癇癪持ち)と名付けられた牡牛だ。
対決はテレビ中継され、スペイン国民の3分の2に達する2000万人の男女が見守り社会活動は一時中断した。これほどスペイン国民が一つになったのは1939年にフランコ将軍が人民戦線政権を倒して独裁体制を敷いて以来、初めてのことだった。フランコ政府に抑圧され、約60万人もの犠牲者を出した内戦で打ちのめされていた人々は、コルドベスに新生スペインの姿を見たのである。