野球善哉BACK NUMBER
普通の公立校が強豪私立と闘う方法。
西脇工、日川の“超積極的”野球。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byKyodo News
posted2013/08/16 19:00
2回表に木更津総合に追加点を許した時の、西脇工バッテリーの翁田勝基と西沢諄。試合後、翁田は「最後まで気持ちを込めて投げ切れた」と元気にコメントした。
ドラマは起こらなかった。
8月16日、大会第9日の第2試合、木更津総合(千葉)が2点をリードして迎えた9回裏二死満塁、西脇工(兵庫)の攻撃。
一打出れば同点の場面で、8番・稗田泰誠が打席に立つと、「もしかして……」のドラマを期待した西脇工への歓声は最高潮に達した。
だが、稗田は一塁への力のない打球に終わり、観客が期待したような結末にはならなかった。
この瞬間、今大会における公立校の挑戦が、またひとつ消えた。
西脇工、日川(山梨)、有田工(佐賀)など野球伝統校ではない公立校が強豪私学に立ち向かっていく――高校野球では、スター選手による奪三振ショーや連続本塁打だけではなく、時として弱者が強者に向かっていくドラマが観客を魅了することがある。
8月14日の大会第7日、日川が大阪桐蔭をあと一歩まで追い詰めた試合は記憶に新しい。
失敗しても何度も挑戦し、最後まで手堅い野球をしなかった日川。
日川はこの夏の最大の挑戦者だった、と言えるかもしれない。
それは、試合開始前のオーダーからもありありと見えていた。
日川は、先発投手に1回戦で完投した194センチの長身右腕・山田基樹ではなく、三枝龍史を立てたのだ。「全くデータがなかった」という大阪桐蔭のスラッガー・森友哉の言葉にあるように、これが昨夏の覇者を手こずらせた。
チェンジアップを武器とする三枝は、速いストレートがあるわけではないが、ボールを両コーナーに散らして的を絞らせない。インコースを意識させてからの、左打者への外のチェンジアップはものの見事に決まっていた。
投手起用だけではない。
2回表に、スクイズで1点を先制すると、とにかく走者を動かした。
盗塁死を恐れず果敢に攻めていく。失敗してもまたチャレンジし、手堅い野球で好機を作っていくのではなく、果敢にエンドランを仕掛けていった。
「相手より一歩前に出ていく野球をしなければいけない。公立校が勝つんだったら、積極的に行かなければという思いがあった」
日川の池谷公雄監督はそう話し、8回表に2点のビハインドがあっても、ひるまなかったと回想したのだった。