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なぜ小林可夢偉は「特別」なのか?
脅威のオーバーテイクの秘密。 

text by

尾張正博

尾張正博Masahiro Owari

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photograph byHiroshi Kaneko

posted2010/10/15 10:30

なぜ小林可夢偉は「特別」なのか?脅威のオーバーテイクの秘密。<Number Web> photograph by Hiroshi Kaneko

過去の日本人F1ドライバーは、さまざまな形で必ず大きな“スポンサー”が付いていた。小林はそれが無いにもかかわらずF1のシートを獲得しているのだ

まったく地の利がなかった鈴鹿でのホームグランプリ。

 小林は実際にF1マシンを運転していないときでも、頭の中でドライビングを極めて緻密にシミュレートしているという。この脳内トレーニングがあったからこそ、その直後に代役出場となった'09年のブラジルGPと最終戦アブダビGPで観客を魅了する走りを披露することができたのである。

 そして今年、この能力が鈴鹿で大きな武器となった。

 実は、小林は日本人でありながら鈴鹿では3回しか走っていない。そのうち1回はF1コースの一部でしかない東コースで、しかも7年も前のことになる。今回F1ドライバーとして初めて臨んだ母国グランプリである日本GPは、ホームグランブリでありながら小林には地の利がほとんどないレースだったのだ。

 ただ小林にとって幸運だったのは、彼がまだF1にエントリーしていなかった'07年と'08年の日本GPが、鈴鹿ではなく富士スピードウェイで開催されたことだろう。7年間の鈴鹿のブランクは、他のドライバーに比べて致命的に大きなハンディキャップにまではならなかったのだ。

 さらに、今年は2日目が大雨となったためフリー走行3回目はほとんどのドライバーがガレージでの待機を強いられ、予選までもが順延となったことも味方した。ドライコンディションでの走り込みがどのドライバーにとっても不足した状態のまま、日曜日に予選と決勝レースが行われたのだ。結局、どのドライバーもレースに向けての準備が万全にはできなかったということになる。このいくつかのハプニングが、逆に脳内トレーニングという武器を持っている小林に有利に働いたのである。

マシンに最適なオーバーテイクポイントをイメージで探る。

 脳内トレーニングというのは、ただ頭の中で願望を念じることではない。自分が定めた目標に対して、どのようなアプローチを選択すれば良いかをシミュレートし、それを実現させるためにどんな準備が必要かを事前に確認しておくことである。当然、他のドライバーの中にも同じようなことをしている者もいるが、小林のそれは緻密さで群を抜いているという。

「ストレートスピードに難があるBMWザウバーのマシンでは、鈴鹿で唯一のオーバーテイクポイントだと思い込まれている西ストレート後のシケインでのオーバーテイクは難しい」(小林)という判断も脳内トレーニングで事前に分かっていたという。それを受けて「だったら、マシンのダウンフォースを削ってストレートスピードを上げていく方向よりも、ウイングをしっかりと立てて低速コーナーで仕掛けられるマシンにしよう」という大まかな方向性を決められる。ここからさらに小林は日本GPに向けたブレーキバランスなど、マシンの非常に細かいセットアップの多くをイメージの中で煮詰めていったと考えられる。

【次ページ】 スポンサー無しでもF1に乗れる初の日本人ドライバー!?

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