野球善哉BACK NUMBER
波乱万丈の野球人生で鍛えた、
日本ハム・榊原諒の“全天候型”能力。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2010/09/27 12:20
現在の姿に重なる大学時代の波のないピッチング。
規定で1年秋のシーズンまで登板できないという苦汁こそ舐めたが、1年秋からエースになると、徐々に投手としての力を積み上げていった。3年春の時点では140キロ台だったストレートは大学4年時後半に150キロまで伸びた。もともとスライダーとコントロールが持ち味だったから、球速が上がったストレートとともに、彼はバランスのとれた投手となったのである。
とはいえ彼の持ち味は、そうした技術面だけではない。それこそ、今の姿を映し出すような真骨頂が大学時代からもあった。鈴木がこんな話をしていたことがある。
「榊原はどこでも変わらないピッチングができる。雨でも晴れでも、グラウンドコンディションが悪くても良くても、(全国大会である)神宮球場で投げていても(リーグ戦のある)万博球場でも、同じピッチングができる。それは彼の持ち味でしょう」
調子に波がなく、どんな時でも一定のパフォーマンスを発揮できる。榊原の持つ大きな力である。緊急時にマウンドに上がり、チームを救う今の姿と重ならないか。
それは技術的というより、人間的な部分と言った方が良いかもしれない。そんな力をこれまでの経験で培ってきたのだ。大学時代の、彼の言葉を思い出す。
「調子に波があるかないか……う~ん、それは性格だと思います。やったりやらなかったりをなくすことですね。たとえば、靴を脱いだら必ずそろえるとか、大学で言えば授業に出るとか出ないとかの、そういう波をなくすことが野球につながってくる。練習態度にしても、10本のランニングをただ走るだけなのか、上手くなるために走っているんだという意識を持つかどうかで、だいぶ違ってくると思います」
10勝を挙げる活躍で、CS進出と自らの新人王を視界に。
天性のリリーバー向きの気質が彼には備わっている。もともとは、先発投手として試合を作れるだけの技術力があるのだから、本来の力が発揮されさえすればもっと他の起用法もあるだろう。だが「どんな状況にも力を発揮できる」、という彼の少しばかり特異な才能は、緊急登板で、今、発揮されている。
24日の楽天戦では先発の木田が1回2/3で降板。榊原が救援に立ち、5回を1失点に抑えて10勝目を挙げ、チームは今季初の単独3位となった。
思えば、榊原が初勝利を挙げた6月15日、チームは最下位だった。おそらく、その時点では、シーズン終盤戦に日ハムがCS進出を賭けて戦っているとは思っていなかっただろうし、まさか、榊原が10勝を挙げているとも思っていなかっただろう。
「少しずつ自信がついてきた」と榊原は10勝目を挙げた後にコメントを残した。チームのCS進出とともに、榊原には新人王というタイトルまでもが、視界に入ってきているはずだ。