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熱心なファンは新しいファンを育てる!?
顧客同士が満足度を高めあう好循環。
text by
葛山智子Tomoko Katsurayama
photograph byMLB Photos via Getty Images
posted2013/05/27 10:30
ドジャースタジアムで、イニングの合間に「TAKE ME OUT TO THE BALLGAME」を歌って盛り上がるファン。応援席の一体感はテレビ観戦では味わえない醍醐味だ。
ロイヤルカスタマーへの階段とは?
面白いことにロイヤルカスタマーが行う巻き込みは、エントリー顧客にとって意味があるだけでなく、ロイヤルカスタマー自身の自己実現の欲求や尊厳の欲求などを満たすことにつながっていることも多い。「頼られる存在」となることによる満足感である。実はエントリー顧客の存在がロイヤルカスタマーの満足度向上にもつながっているのだ。双方向の関係性。これこそが「互い」に影響するということであり、企業に必要な顧客インターラクションの要件の1つであろう。
顧客にいかにロイヤルカスタマーへの階段を上ってもらうか。それには、顧客が知らず知らずのうちにロイヤリティを高めていくような仕組みを作りだすことが重要である。例えば、プロ野球のファンクラブ制度は、事業会社のポイント会員制度やマイレージ会員制度などと同じく、ロイヤルカスタマーへの道を進んでもらうことにつながる1つの取り組みであるといえよう。
特にプロ野球の場合には、様々な取り組みが行われている。ロッテマリーンズのファンクラブは「TEAM26」というユニークなネーミングをつけている。マリーンズでは背番号26をファンのための永久欠番として、ファンの巻き込みを意識したコンセプトを打ち出してアピールをしており、また楽天イーグルスも同じく背番号10番をファンのための永久欠番とした取り組みを行っている。さらに各球団にはキッズ(ジュニア)会員制度があり、早い段階からの巻き込みを積極的に行うほど、このカスタマーの囲い込みに力をいれている。
顧客同士が互いにインターラクションをもつことで自然にロイヤルカスタマー化していく仕組みを回すことができると、満足度の高いロイヤルカスタマーの獲得において優位になる。
このような共創の関係性というのが望ましい関係性の1つではないだろうか。企業から顧客へという一方通行の関係性ではなく、企業と顧客が共に価値を作りだす関係性。顧客同士が互いに価値創造の役割を担っている関係性。そのような関係性を作りだすことは、きっと企業のビジネスモデルに大きなインパクトを与えることになるであろう。
その関係性の構築には、顧客自身がどのようなサービスを受けることができるのかの事前期待が正しく醸成されている状況を作りだすことが必要となる。
あらためて、自社の顧客は誰なのか、どういう顧客をどのようにミックスした状態が最も効果的な顧客同士のインターラクションが行われるのかなどについて戦略を立てた上で顧客戦略を練っていただきたい。
今回のポイント
◆サービスの質は、企業から顧客に一方的に提供されるもので決まるだけではなく、その場を共有する顧客同士のインターラクションによっても左右される
◆顧客同士のインターラクションが価値あるものになるには、サービスが提供される場に集う顧客の中に共通する期待値(共感ポイント)があることが重要
◆サービスのクオリティをコントロールするとは、ターゲット顧客をしっかり集めるということでもある
◆ロイヤルカスタマーになればなるほど積極的に他の顧客とインターラクションをとるため、顧客の中にロイヤリティを育てる仕組みが重要である
【参考資料】
『生き残る企業のコ・クリエーション戦略 ビジネスを成長させる「共同創造」とは何か』ベンカト・ラマスワミ (著)、フランシス・グイヤール (著)、尾崎正弘(監修)、田畑 萬(監修)、山田美明 (翻訳)
「千葉ロッテマリーンズの挑戦」
~顧客満足度を高めるマーケティング戦略~
原田卓也氏(株式会社千葉ロッテマリーンズ
事業本部企画部 部長代理)
葛山智子氏(グロービス経営大学院准教授)