野球善哉BACK NUMBER
八戸工大一が見せる驚異の組織力。
奇跡を生むカバーリングとは?
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2010/08/12 16:00
それは何かのフォーメーションを見ているかのようだった。
一つのボールの動きに対し、守備陣全員が動く。
八戸工大一が初戦の英明戦で見せたカバーリングは、それこそ、完璧にオーガナイズされたサッカーのフォーメーションのように、全選手が連動して同時に動いていた。
たとえば、二塁けん制。
二遊間のどちらかが入り、バックアップに行くのは中堅手だが、それと同時に全員が動いている。外野手ならまだしも、何より驚いたのは、捕手・小笠原までもが立ちあがることだ。ホームベースの前に出て、構えを取っている。二遊間から投手に返されるボールに備えて、万が一のため、カバーに入っているのだ。その時、左翼手はすでに三塁後方に位置している。
万が一、億が一のために……カバーを怠らない。
こうしたカバーリングが、八戸工大一の守備時には頻繁に行われている。選手たちは口をそろえて言う。
「目指すのは日本一のカバーリング。カバーリングや全力疾走は技術に関係なく、意識すればやれることなので、そこに全力で取り組むんです」
花巻東は菊池雄星とは別の要素でも優秀なチームだった。
もっとも、全国大会に出てくるチームでカバーリングをしないチームはほとんどない。ただ、そこへの取り組み方に多少の違いがある。本気でやっているのか、プライドを持ってやっているのか。そして、ここ数年の高校野球を見て感じるのは、カバーリングにしっかりと取り組むチームは総じてまとまりがある、ということだ。スタジアムを包み込むような一体感さえある。
昨夏ベスト4、センバツで準優勝に輝いた花巻東の野球がまさにそうだった。菊池雄星一人の存在だけがクローズアップされたが、そのカバーリングに対する取り組みが抜群に良かった。たかだか一塁のけん制にも全員がひた走り、全員が守備位置に戻ったのを確認すると、菊池雄星は投球モーションに入った。
彼らが見せたまとまりの根底にあったのは、どれだけ小さなプレーにも、カバーリングを怠らないというところだった。
そんな花巻東が見せたカバーリングを、同じ東北勢の八戸工大一が実践している。青森では安定政権と言われた、青森山田、光星学院を破った背景が、そうした彼らの戦いぶりから透けて見えてくる。
英明戦ではこんなシーンがあった。
2回裏、英明の9番・阿南は左翼前へクリーンヒットを放つと、一塁ベースを大きく飛び出した。すると、そこを狙ったかのように八戸工大一の野手からボールが転送された。ところが、この送球が悪送球となる。阿南は再度、体重を二塁方向へと傾けたのだが、悪送球したはずの延長線上、そこには八戸工大一の捕手・小笠原がいた。阿南は慌てて、一塁へ戻った。