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ジェフを愛した男・巻誠一郎。
熱い想いを袖にする経営陣の愚。
text by
佐藤俊Shun Sato
photograph byKYODO
posted2010/08/06 10:30
選手は変われど、フロントの「悪しき慣習」は旧態依然。
それだけに今回の巻に対するフロントの対応は、とても信じられないものだった。
練習への参加が認められなかったことや、「高額な年俸をもらってベンチにいるのは、居心地が悪いだろう」等々の発言は、巻がこれまで果たしてきた役割やチームへの貢献度を無視したあまりにも冷徹な対応であり、心ない発言であろう。
どうして、「今までチームのためにありがとう」という優しい言葉がかけられないのか。
どうして、チームの功労者に対して、気持ちよく送り出してあげることができなかったのか。
オシム以降、選手の意識は変わって来ているのに、ジェフの「悪しき慣習」は、まったく変わっていない。
オシムがジェフに残していったものは、結果やスタイルだけではない。言葉で人の心を打ち、動かしていくことが、いかに重要であるかということでもあったはずだ。オシムの言葉が選手やフロント、サポーターを同じ目標に向かわせ、それが大きな力になっていったのだ。今のフロントは、どうやらそれを忘れてしまったようだ。
巻が流した涙の意味をジェフの経営陣は汲み取るべきだ。
「また、ここに戻ってきます」
巻は涙を流しながら、そう言った。
トップやフロントに冷たくあしらわれても、巻はクラブへの愛情を隠さなかった。そして、大勢のサポーターも「待っているぞ」と巻を支持した。もちろん、ジェフの選手たちもこの日は「巻を勝って送り出す」という気持ちで団結し、そして大勝した。巻という選手を中心に、選手、サポーターが一体となり結果を出した。そして、感動的なセレモニーが出来た。このシーンをトップやフロントは、どういう想いで見ていただろう。
オシムや巻が残していったものを、クラブのトップやフロントは、もっと大事にすべきだったのではないか。クラブの伝統やプロ意識は、一朝一夕でできるものではない。長い歴史の中で、培われていくものだ。その中で、巻のような大きな役割を果たす存在の選手が出てくる。そういう人を大事にできないクラブは、サポーターに元気も楽しみも幸せも感じさせることなどできやしないのだ。