スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
最強バルサに暗雲が立ちこめる……。
ビラノバ監督、病気再発で戦線離脱。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byMarcaMedia/AFLO
posted2012/12/22 08:03
手術することを発表したロセイ会長らの19日の会見には、監督を心配したシャビ、イニエスタ、プジョル、バルデスらの姿もあった。
論理的かつ緻密な戦術で敵のバルサ対策を無力化。
これらの成功をもたらしたこの半年間で、ビラノバに対する評価は大きく変わった。
バルセロナのプレー哲学を選手達に教え説く教祖的な存在だったグアルディオラとは違い、ビラノバはもっと論理的にゲームや戦術を分析し、勝利への方程式を導き出す研究者タイプの監督だ。
例えば今季は、毎年改良されている対バルセロナ用の極端な守備戦術への対策として、グアルディオラの指揮下ではほとんど見られなかったペナルティーエリア外からシュートを狙う意識が増した。リーガ第3節のバレンシア戦や16節アトレティコ戦でアドリアーノ、5節のグラナダ戦ではシャビが決めた先制ミドルはその意識が生みだした賜物だと言える。
「サイドバックのFW化」も今季見られるようになった新たな攻撃オプションの1つだ。
衝撃をもたらした昨季の3-4-3では、タッチライン際に開いた両ウイングの内側で数的優位を作ってパスを回しながら、「ダブル偽9番」のメッシとセスク、時にはシャビやイニエスタが前線に飛び出すことで相手守備陣を混乱に陥れた。
だが4-3-3をベースとする今季の場合、同じく両ウイングが比較的サイドに張り出した状態から、2列目のMFだけでなく両サイドバックがDFライン裏に飛び出す頻度が高くなっている。それもタッチライン際を駆け上がってクロスを上げるという典型的なオーバーラップではなく、ペナルティーエリア内のシュートが打てる角度に侵入しているのが特筆すべき点だ。
手腕を不安視する声を封じ込めた矢先の無念の休養。
ケガ続きのダニエウ・アウベスを尻目にレギュラーを奪った絶好調のアドリアーノは、これまでリーガでビジャ、セスクと並ぶチーム2位の5ゴールを決めている。新加入のアルバもリーガで2ゴール、CLのセルティック戦では終了間際に値千金の決勝点を挙げた。全くノーマークの状態から猛スピードで駆け上がってくる彼らは、対戦相手にとって分かっていても止めるのが難しい非常に厄介な存在となっているのである。
昨季までのベースはそのままに、ビラノバはこうしたディティールを加えることで、開幕当初から負傷者が続出していた最終ラインの不安を補って余りあるゴールを生みだしてきた。
そんな指揮官に対し、もはや就任当初に聞かれた監督としての経験不足やカリスマ性の欠如を指摘する者はいない。聞こえてくるのは賞賛とリスペクトの言葉ばかりである。