REVERSE ANGLEBACK NUMBER
勝っても負けても、完全燃焼の20秒。
前頭4枚目舛ノ山、相撲人生の刹那。
text by
阿部珠樹Tamaki Abe
photograph bySankei Shimbun
posted2012/11/21 10:30
2010年11月場所に新十両へ昇進し、高安と共に初の平成生まれの関取となった。一時、母の母国フィリピンに住んでいたため、英語、フィリピン語に堪能。身長181cm、体重178kg。
限られた力士生活を駆け抜けるかのような激しい相撲。
十両にいた去年の1月場所では、場所中に足のじん帯を痛めて1日休んだあと、復帰して勝ち越しを決めた。しかし、そのあとまた足が悪化し、8勝5敗2日の休みという珍しい成績で場所を終えた。今場所も、場所前に肩を痛め、左肩から腕にかけて大きなテーピングをしながら土俵に上がっている。強く当たって突き放す力士にとって、片方の腕から肩を痛めるのは大きな戦力ダウンで、本来なら休場でもおかしくないだろう。それでも自分の番付が最高位に上がり、強い相手との対戦が増える中で、勝ったり負けたりの奮闘を演じている。
取組がはじまるとけがのことは忘れるらしく、頭で当たり、痛いほうの左でおっつけるといった見ているほうが痛くなる取り口を見せることもあった。
せわしないのは病気から来る肉体的制約のせいといったが、実はそれだけではないだろう。生き方そのものがせわしない、時間の制約を意識したようなものなのかもしれない。与えられた時間は限られている。一番ごとの時間も20秒の制約付きだが、将来の力士生活を考えても、病気が簡単に治らないものであるとすれば、よほどのことがない限り、何年も土俵を務めるのはむずかしい。だからこそ、引き上げるときの足も速くなるのだ。
“生き急ぐ”ことでしか得られない徳が舛ノ山にはある。
こういう短期燃焼型のスポーツ選手は、最近少なくなっているように思う。いま、注目され、賞賛されるのは、長く現役を務める選手だ。考え抜いたトレーニングと強い意志で肉体的な衰えを克服し、プレーをつづける選手への関心は年々高くなっている。頂点を極めたような選手でも簡単に現役を退く人は少ない。再三のチャレンジこそが大げさにいえば時代精神なのだ。
舛ノ山はそう遠くないうちに引退する、などといっているのではない。うまく病気とつき合いながら、できればそれを克服して長く相撲を取って欲しい。だが、一方で、科学的トレーニングとメンタル理論で武装して賢く現役をつづける選手が多くなった時代の中で、医者やトレーナーが見たら首を傾げるようなスピード感のある燃焼を見せてくれている舛ノ山に魅力を感じる。賢いとはいえないかもしれないが、徳はある。そんな生き方に思えるのだ。