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イーストウッドが紡ぎ出す、
老スカウトの滋味深き人生。
~主演映画『人生の特等席』を語る~
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byTakuya Sugiyama
posted2012/11/21 06:00
『人生の特等席』 監督:ロバート・ロレンツ 11月23日(金・祝)より、丸の内ピカデリーほか全国ロードショー。
「誤解、対立を解決するプロセスが興味深かったんだ」
「父には、野球のせいで娘から普通の生活を取り上げてしまったコンプレックスがある。娘は過去にわだかまりを持ちながらも、野球そのものが彼女の人生を豊かにしたことも理解している。誤解、対立、それを解決していくプロセスがとても興味深いと思ったんだ」
対立関係にありながら、誰もいないグラウンドで父が球を投げ、娘がバットで打つシーンは爽快感にあふれる。80歳を超えたイーストウッドの投球シーンにはよくぞ投げたと拍手したくなったが、「実際には5、6球投げたかな。あんまりコントロールは良くない」とニヤリとした。
徹底した「アンチ・マネーボール」の姿勢に込めたメッセージとは。
もうひとつ、野球ファンに注目して欲しいのは、「アンチ・マネーボール」に徹している部分だ。ブレーブスの経営陣でマネーボール派の若造は中身のない人間として描写され、徹底的に揶揄される。それはちょっと気の毒なほどで苦笑してしまうのだが、そこには「コンピュータだけでは野球は分からない」という現場重視のメッセージが込められている。
マネーボール派の対極に位置するのがガスであり、彼は選手のスカウトにあたっては五感を重視する。イーストウッドが演じると、50年以上は野球を見てきた雰囲気がにじみ出てくるから不思議だ。
「ガスに引退という文字はない。自分も明日、素晴らしい脚本に出会えれば、また映画作りを始めるよ」
82歳にして意気軒昂、イーストウッドの新作は滋味深い仕上がりになっている。