メディアウオッチングBACK NUMBER
イーストウッドが紡ぎ出す、
老スカウトの滋味深き人生。
~主演映画『人生の特等席』を語る~
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byTakuya Sugiyama
posted2012/11/21 06:00
『人生の特等席』 監督:ロバート・ロレンツ 11月23日(金・祝)より、丸の内ピカデリーほか全国ロードショー。
「ストーリー、キャラクター、映画を作るにはこのふたつの要素が大切。『人生の特等席』の脚本を読んで、どちらも気に入ったから出演を決めたんだ」
映画史に名を残す監督であり俳優でもある82歳のクリント・イーストウッドが久しぶりに主演に集中し、年老いたスカウトに扮する――。これだけで名画の雰囲気が漂ってくるではないか。
試合後に酒を酌み交わすスカウト仲間も、商売敵となる切なさ。
主人公はアトランタ・ブレーブスの古参スカウト、ガス(イーストウッド)。彼は野球だけが人生の男で、年を重ねて体の不具合と戦いながら仕事を続けている。かつては球団の宝となるような逸材を発掘してきたが、球団内ではコンピュータを駆使する「マネーボール派」の台頭もあり、旧タイプのガスには風当たりが強くなっている。
興味深いのはアメリカ南東部を縄張りとするスカウトたちの生活ぶりだ。どこに行っても仲間がいて、試合の後は酒場で映画の話などで盛り上がるが、最終的に商売敵となる切なさが垣間見える。
ロサンゼルスでの取材でイーストウッドは「映画には6人のスカウトが登場している。1年に10カ月も家から離れてモーテルで過ごさなければならないタフな仕事だし、そのせいで家庭にトラブルを抱えているスカウトも多いんだ」と、彼らの生活が作品に投影されていることを明かしてくれた。
「父と息子」を描く元来の野球映画と違う、「父と娘」のストーリー。
野球の話が縦軸とするなら、ガスが娘とのトラブルにどう対処するかが横軸となって物語が展開する。
彼には弁護士でキャリア志向のひとり娘(エイミー・アダムス)がいる。彼女は父の仕事柄、幼少期に苦労を強いられたために、彼のことを完全には受け入れられない。野球が親子関係に影を落とした過去があるのだ。そうした状況でガスはドラフトの目玉といわれる高校生の担当を任され、ここから父と娘の物語が交錯して動き出す。
元来、アメリカの野球映画は『フィールド・オブ・ドリームス』に代表されるように父と息子の葛藤を描いてきた。父子相伝、といわれるようにキャッチボールが世代を超えた絆の象徴だったのだが、『人生の特等席』ではそれが「父と娘」になっているのが「いま風」である。イーストウッドはこの部分にこそ、出演を決めた理由があったという。