野次馬ライトスタンドBACK NUMBER

川崎宗則が叫び続ける「チェスト!」。
ルーツは薩摩の剣術にあり!? 

text by

村瀬秀信

村瀬秀信Hidenobu Murase

PROFILE

photograph byNIKKAN SPORTS

posted2010/06/09 12:35

川崎宗則が叫び続ける「チェスト!」。ルーツは薩摩の剣術にあり!?<Number Web> photograph by NIKKAN SPORTS

川崎のスタイルに通じる“一の太刀を疑わず”の精神。

「示現流には四つの精神があります。『刀は抜くべからざるもの』、『一の太刀を疑わず、二の太刀は負け』、『刀は敵を破るものにして自己の防具にあらず』、『人に隠れて稽古に励むもの』というものです。そもそも示現流は人に無礼をせず、土下座をして赦しを乞うてでも、相手が抜かない限り、刀を抜かないという精神があります。ただ、ひとたび相手が抜いたからには、自分のすべてをかけて、髪の毛一本分でも早く電光石火で斬りつける。そして、“一の太刀を疑わず”。幕末の頃に示現流の刀を受けた相手が、受けた自分の刀ごと額を十字に割られた逸話があるように、どんな障害があろうと刀を抜けば一撃で仕留める。それができるのは、頭で考えるのではなく、身体で覚えているから。斬りかかってきたその瞬間、身体が反応する。それが示現流の極意です」

 グラウンドの外では、爽やかな笑顔で争いごとなど微塵も想像させない好男子。だが、ひとたび戦場に出たならば、WBCで見せた“神の手”スライディングのように、時に自らをも顧みず、走攻守すべてにおいて全力プレーで挑む。そしてバットを抜けば“一の太刀を疑わず”。

 一の太刀、それを野球に喩えるならば、川崎の代名詞でもある「初球打ち」とは言えないだろうか。

「狙った球じゃなくても、打てる球があったら積極的にガンガン振っていく」

 以前からそんな言葉を常々口にしているように、川崎のバッティングは「早打ち」が特徴として挙げられる。それは、時に悪癖と呼ばれ、ホークスファンから疎んじられることもあった。

 しかし、今季絶好調の川崎の成績を見てみると、この早打ちが更に顕著になっているのだ。

得点圏打率パ・リーグトップの勝負強さ!!

 初球打ちの回数はパ・リーグトップの40打席。そのうち22本のヒットを放ち打率は.450。ファーストストライクを打った回数も全打席の4割弱にあたる72打席。打率.458とハイアベレージを残している。

 最も顕著な試合だったのが、一昨日の阪神戦。全6打席のうち5打席がファーストストライクから振りに行っているのだ。(前日には始球式の球まで右前打にしてしまったがこれはさすがに早すぎ)。その積極性たるや、まさに“一の太刀を疑わず”の精神。

 そして、得点圏打率パ・リーグトップの数字に現れるように、今季の川崎は抜群に勝負強い。しかも、ここ一番という時には、この“一の太刀”によって、試合を決定づけている場面が実に多いのだ。

 初球を仕留めて試合を決めた試合後のコメントがまた興味深い。

 永井から決勝ホームランを放った4月27日の楽天戦。

「体が自然と反応してバットが振り抜けた」

 中沢から唯一の得点となる決勝タイムリーを放った5月15日のヤクルト戦では、口では「真っすぐ一本に絞っていた」と言いながらも、打ったのは初球のカーブである。

 示現流の教えである、「頭で考えるのではなく、身体で覚える」が如く、斬り掛かってきたその瞬間、身体が反応して結果を残す。……これは、川崎が示現流の達人の境地に近づいていることの証なのではないだろうか。

【次ページ】 「バットでなく刀を持たせたら相当の遣い手になる」

BACK 1 2 3 NEXT
#川崎宗則
#福岡ソフトバンクホークス

プロ野球の前後の記事

ページトップ