南ア・ワールドカップ通信BACK NUMBER
それでいいのかイングランド!
日本戦で露呈した3つの危機とは?
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byGetty Images
posted2010/06/02 10:30
イングランド代表の要となる守備的MFバリーの不在。
バリーという選手は日本での知名度こそ低いが、「役割の重要性に関しては、現在のイングランド代表で1、2位を争う」(現地記者)という見方もあるほどだ。
カペッロ流の4-1-4-1、すなわちW杯予選でクロアチアを5対1と一蹴した時のような4-1-[1-2-1]-1を再現するためには、バリーを中盤の底に据えるのが有効な手段になる。彼がバイタルエリアの前を固めてくれるからこそ、ジェラードやランパードも思い切りよく攻撃に参加することができるようになるからだ。
たしかに日本戦の後半のように、4-4-2でジェラードとランパードが中央に並ぶスタイルも、そこはかとなくクラシカルな魅力があり悪くはない。かつては二人が中盤で同時にプレー出来るかというようなことも盛んに議論されたが、今ではコンビネーションもスムーズに機能するようになった。
また、キャリックを中盤の底で起用するというオプションもあるだろう。だがどうせならば、バリーがアンカーを務めるチーム本来の姿を見たいというのがファン心理だ。当のカペッロ自身、誰よりもそれを強く望んでいるに違いない。
過去のアクシデントが蘇る、ルーニーの異常な奮闘ぶり。
そして最後の不安はルーニー。日本戦でもルーニーは素晴らしかった。運動量、テクニック、視野の広さ、そして気持ちの強さ、どれをとってもピカイチだし、「チーム・イングランド」=「チーム・ルーニー」だといっても過言ではない。現に日本戦でカペッロはいくつかのシステムをテストしていたが、こと攻撃に関しては、どのシステムでもルーニーが常に中心的な役割を担っていた。
だがそれが故に、ある疑問がついつい頭をもたげてしまう。それは「ルーニーがいなくなった場合には、どうするのか」というものだ。
そもそもルーニーの場合、スピードもあるが体重もあり、かつ人並み以上にガッツも豊富なだけに、どうしても怪我をしやすい。ましてや今大会は彼にとって3度目の正直(2004年のユーロは骨折で退場、'06年のドイツW杯はレッドカード)となるだけに、余計に気持ちが空回りしてしまう危険性は十分にある。
カペッロにとっては、ルーニーが試合に出場できなくなった時こそが戦術家としての腕の見せどころになるのだが、リスクはあまりにも大きい。
あくまでも代表メンバーの最終選考だった日本戦だが……。
イングランド代表が密かに抱えている様々な不安は、日本戦で誰の目にも明らかになった。もちろんカペッロは、あくまでも6月1日のメンバー発表に向けて、当落線上の選手や様々なコンビネーションをテストするための機会として、今回の試合を利用した。その意味でチームの出来の悪さは、ある程度差し引いて考える必要があるだろう。
だがそれにしても……。
アルゼンチンなどと同じ様に、スペイン、ブラジルに次ぐ優勝候補の一角としては、あまりにも見るべきところがなかった。もし自分がイングランド人のイングランドサポーターだったら、いくら試合に勝ったと言っても、試合後、あそこまで無邪気に騒ぐ気分にはちょっとなれないと思うのだが。