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男子テニス決勝は、全英の再戦に。
A・マリーが手にした金メダルの重み。 

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秋山英宏

秋山英宏Hidehiro Akiyama

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photograph byGetty Images

posted2012/08/07 10:30

男子テニス決勝は、全英の再戦に。A・マリーが手にした金メダルの重み。<Number Web> photograph by Getty Images

7月のウィンブルドン決勝では、イギリス人選手として76年ぶりの優勝に期待がかかったが、決勝でフェデラー(写真左)に敗れたマリー(写真中央)。2週間後に訪れたリベンジの舞台で、見事雪辱を果たした。

決勝までの試合で心身ともに磨り減っていたフェデラー。

 フェデラーは序盤から違和感を抱えながらのゲームとなった。これがフェデラーかと思うほど、自然な動き、自在なショット選択が影を潜めていた。特にフォアハンドが彼らしくなく、名刀を一閃したような一打は数えるほど。置きにいくようなショットが目立った。やはり、準決勝の4時間半の戦いが堪えていたと見るべきだろう。

 マリーにとっては会心のゲームだった。ピンチらしいピンチもなく、第3セットは5度のサービスゲームで相手に1ポイントしか与えなかった。6-2、6-1、6-4。頂点を決める一戦は、誰も予想しなかったスコアで決着した。

「すごくエモーショナルな大会だったから、今日の僕は精根尽きたような状態でコートに立っていたように思う」

 フェデラーの試合後のコメントだ。金メダルへの思いが彼を決勝に導いた。しかし、その代償は大きかった。準決勝までの5試合で心身ともに磨り減ったフェデラーに、余力はなかったのだろう。それでも彼はプライドを失っていなかった。

「シングルスでメダルが取れた。これこそ僕が望んでいたことだ。アンディの優勝は僕もうれしいよ」

もがき続けたアンディ・マリーに与えられたプレゼント。

 試合終了の瞬間、マリーは祈るような姿勢でコートにひざまずいた。ネットをはさんでフェデラーと互いの肩を叩き、健闘をたたえ合うと、一目散に母親とガールフレンドの待つ観客席に駆け上がった。

「僕の人生でもっとも大きな勝利だ」

 その言葉には実感がこもっていた。このセンターコートで栄冠を掲げることを彼ほど強く願った選手はいない。選手権では、地元優勝の期待がいつも背中にのしかかった。今年も優勝カップを手にすることはできなかったが、その代わりに金メダルを手中に収めたのだ。

 表彰式でマリーは英国国歌を口ずさんだ。選手権の表彰式では国旗掲揚もなければ、国歌が流れることもない。「グランドスラムの決勝で僕は何度もタフな敗戦を経験した。僕はそのたびに傷ついた」というマリー。仰ぎ見る国旗と、観客と声をそろえて歌った国歌は、もがき続けた彼に与えられたプレゼントだろう。

 男女とも、新たな金メダリストが誕生した。過去の五輪では番狂わせも多かったが、表彰台に上がったメダリストは誰もが納得する顔ぶれだった。「5番目のグランドスラム」にふさわしい盛り上がりの中で、ロンドン五輪のテニス競技は幕を下ろした。

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