野次馬ライトスタンドBACK NUMBER
“正捕手のテーマ”を自分の応援歌に。
横浜・武山真吾が扇の要になる日。
text by
村瀬秀信Hidenobu Murase
photograph byHideki Sugiyama
posted2010/05/24 12:45
「一番苦労したのも僕……ヘンな自負もあります」
武山はいわゆるエリートではない。2002年ドラフト10巡目で入団。期待値は当然低く、ファームで3割を打っても、チーム最多の本塁打を打っても、5年間一軍からお呼びが掛からなかった。'08年にようやく一軍登録され33試合に出場。相川・鶴岡がチームを出たことで、一気に正捕手候補に名乗りを上げたが、昨季は阪神から野口、早稲田大学から細山田、今季はロッテから橋本と、次々とライバルが出現。熾烈な正捕手争いに巻き込まれるが、2年とも二軍スタートから這い上がり結果を残してきた。
「そういう意味では打たれ強くなっていると思いますし、得られたものも多いと思うんです。今のキャッチャー陣で、一番苦労したのも、踏んづけられてきたのも僕だというヘンな自負もあります。だから、負ける気がしないんです。それに、賭けているものが違いますよ。僕には過去の実績や未来があるわけじゃない。“今”しかないんです。ここでレギュラーを獲らないと終わり。そう覚悟しているから、他の人に簡単に獲らせるわけにはいかないんですよ」
ベイスターズに最も欠けていたものが武山にはある。
武山の最大の武器は、ハートである。
打ち損じの内野ゴロでも、最後まで全力で駆け抜ける。追いつきそうもないフライにも果敢に飛び込んでいく。何度踏んづけられても、心を折らずに這い上がってくる強さ。それは、ここ数年、最もベイスターズに欠けていたもの。そして8年間、何度も心が折れそうになった武山を助けてきたのが、周囲からの「声」なのだ。
武山が執拗に個人応援歌にこだわった理由が、わかったような気がした。
「打って、走って、守ることを、泥だらけになって全力でやる。子供の頃に名古屋で観た、武志さんのような選手になりたいんです。応援歌も今はまだ若菜さんであり、武志さんの曲というイメージが強いと思いますけど、いつかは自分の曲にしたい。何十年か後にもこの曲を聴いて『これは武山の曲だ』と思い出してくれるような、そんな選手になりますよ」
今の横浜の選手にも、村田修一は谷繁元信、内川聖一は高木豊と、過去からの流用曲を使用している選手は多い。だが、この2人の曲から昔の選手を連想するファンは今はもういない。
若菜嘉晴・中村武志と受け継がれた、“正捕手のテーマ”を武山が自分の曲にした時、ベイスターズに念願の扇の要が誕生する。