野次馬ライトスタンドBACK NUMBER
さらば、愛しの山下書店東京ドーム店。
“文系野球の総本山”が閉店間近!!
text by
村瀬秀信Hidenobu Murase
photograph byHidenobu Murase
posted2012/01/20 10:30
山下書店東京ドーム店・岡野淳一店長の雄姿を店頭にて撮影。ちなみに、1月29日は東京ドームではイベントが無く、後楽園ホールでは、お昼からDDTプロレス、夜には新日本プロレスの興行が開催予定である
ホークス川崎の写真集を抱えた女子の後ろに本人が!
そこに集いしツワモノたちもまた、選ばれし精鋭である。ある時は自費出版で作った本を「並べろ」と勝手に100冊送りつけてきた人もあった。「原辰徳ですけど『ジャイアンツ愛』を1冊」やら、「孫正義の身内のものですが、ホークスのオフィシャルブック5冊」など、明らかに偽名と分かる予約電話も日常茶飯事。一般書も新刊も売れない特殊すぎるこの店で、売り上げを伸ばす為には普通の書店が経験しない余計な苦労も散々あったことだろう。
しかしその苦労の数だけエピソードもある。ファンだけでなく、多くの野球選手もまた、この書店を様々な目的で訪れたとか。
「そうですね。皆さん気づきませんけど選手の方もよく買いに来てくれましたよ。WBCの壮行試合の時なんて店の9割が選手でしたから。でも最近のプロ野球選手は私服だとわからないですね。ホークスの川崎選手の写真集を抱えてレジに並んでいる女の子の後ろに本物がファッション誌を持って並んでいたこともありました。大道コーチみたいに現役時代から毎週競馬本を買いに来て店に馴染み過ぎの方もいましたけど(笑)。ダルビッシュ投手は読書家のようでいろんな本を買いに来たんですけど、さすがにバレましたよね。バレると女の子や子供が騒いで大変なんです」
ハリポタ発売日に徹夜で並んだ客が手にしたのは……?
「バレンタイン監督なんてサービス精神が旺盛すぎて店内で即席サイン会をはじめちゃって……あれは困りましたね。でもやっぱり目立つのは長嶋監督ですね。一番印象に残っているのは監督退任後すぐに野村監督の本を予約していったことでしょうか。あとこれはボクシングですけど、輪島功一さんが車の雑誌をレジ横で開いて『ねぇねぇ、どの車がいい?』って聞かれたので『ディーラーに聞いてください』って答えたことですね(笑)」
“人の品性は読む書物によって判ずることができる”なんて格言があったような気がするが、実に興味深く、ちょっと聞いただけでも一冊の本が作れてしまいそうなぐらい、この店は野球を語るに十分な魅力的なエピソードで溢れかえっている。
しかし、8割方の本が野球・格闘技・競馬関連という極端な店は、平均化が好まれる今の時代にそぐわないのか。チームの勝敗に売り上げが左右されるような店であり、世界のハリー・ポッターの発売日に、前夜から寝袋で並んでいた熱心な客が真っ先に手にしたものが闘魂三銃士の限定プロレスカードだった本屋なんてものは、経営者からすれば頭を抱えるものでしかないだろう。濃すぎるファンからあらぬ因縁をつけられ、選手やOBから「俺の本がねーぞ」とドヤされ、挙句表紙裏返しを含む思い思いのディスプレイを客が勝手にやっていく。想像する。うむ。そんな店、絶対に嫌だ。