フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
母と一緒に滑った浅田が全日本でV。
男子は最強の世界選手権代表トリオ。
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byAkihiro Sugimoto/AFLO SPORT
posted2011/12/26 11:50
2年ぶり5度目の全日本選手権優勝に「母も喜んでくれていると思います」と語った浅田真央。SPで首位に立っていた村上佳菜子は、フリーでのジャンプミスや転倒があり浅田の逆転優勝を許すこととなった
大阪・なみはやドームに集まった5千人あまりの観客たちが、静まり返った。大勢集まったカメラマンたちのシャッターの音も、心なしか遠慮がちに聞こえる。
12月24日、クリスマスイブの日に開催された全日本選手権、女子ショートプログラム。氷の上にいるのは、浅田真央だ。12月9日に最愛の母親を亡くしたばかりの彼女は、以前よりもさらにほっそりし、顔色が少し沈んで見える。それでもこの大会に出てきたのは、本人の希望だった。報道陣には、「選手への質問は競技のことのみ」とあらかじめ日本スケート連盟から規制がしかれていた。
演技終了後、天から見守る母に向かって微笑むようだった浅田。
シェヘラザードのメロディがはじまり、滑りはじめる。2アクセル、3フリップ+2ループ、3ループ。ノーミスだった。観客たちもほっとしたようで、ようやく惜しみない歓声と拍手が沸き起こった。
「いつもと違う緊張があった。でも音楽が鳴り始めたら、いつも通りに滑れたと思います。終わってほっとしています。次につながる演技ができたかと思います」
普段はキラキラとよく光る瞳は、やはり少し元気がない。それでもけなげにときおり笑顔を見せながら、メディアの質問に答えた。勢いのあるすばらしい演技を見せた村上佳菜子に次いで、僅差の2位スタートになった。
そして翌日のクリスマスは、フリーの決勝だった。浅田真央は、最終グループ6人中4番目の滑走だった。「愛の夢」のメロディに合わせて、3フリップ+2ループ、2アクセル+3トウループなどを着氷していった。後半のサルコウとループが2回転になり、いくつかほかにも回転不足になったジャンプはあったものの、最後まで大きく崩れることのないまとまった演技だった。
演技が終わった浅田真央は、ほっとしたように天井を見上げた。まるで天から見守る母に向かって微笑んだように見えた。
逆転優勝。2年ぶり、5度目の全日本タイトルだった。
「選手として、やるべきことをやらなくてはならなかったので」
「得意なループで失敗したのはすごく悔しかったです。スタミナは問題なかったけれど、パーフェクトに滑れるかと思って気持ちがあせってしまって」
SPの後のときよりも、少しだけ表情が明るかった。GPファイナルを棄権した後、4日間練習を休み、再開したときは筋肉痛もあったという。
「とにかく試合まで時間がなかったので、余計なことを考えている暇がなかった。選手として、やるべきことをやらなくてはならなかったので」
そう言いながら、浅田真央は何度かぐっと何かをこらえるように唾をのみこんだ。これまでじっくり悲しむ暇もなく集中してきた緊張感が、少しだけ溶けてきたのだろうか。